コラム

女性ドライバー採用の実情。課題や解決策、企業事例もご紹介。

女性ドライバーの採用

目次

トラックドライバー、タクシードライバー、バス運転手など、多くの職業ドライバー業界で人手不足が続いています。小さな運送会社では人手不足から「仕事を受けたくても受けられない」こともあり、人手不足は職業ドライバー業界で大きな問題になっています。
この問題を解決するため、業界全体で労働環境の改善、高齢者の積極的採用などに取り組んでいます。中でもメリットの多い取り組みとして期待されているのが「女性ドライバーの積極採用」です。

女性ドライバーの実情

女性トラックドライバーの雇用を推進しようと国土交通省が2014年に始めたのが「トラガール促進プロジェクト」です。
同じ国交省は2016年にはタクシー会社に向けて「女性ドライバー応援企業認定制度」を創設し、女性タクシードライバー増加の取り組みも進めています。さらに2017年には一般社団法人 女性バス運転手協会が設立。女性バス運転手採用の活性化、職場環境の改善、女性運転手の定着、女性運転手のコミュニティ形成、情報発信などを行っていくという協会です。いずれも数年前から取り組みが始められています。

2018年の厚生労働省による労働力調査では、職業ドライバーにおける女性従業員の割合はわずか2.3%で、同じく「男の職場」だった建設業は16.3%であることから、運送業界の女性採用はまだまだ進んでいないことが分かります。

(画像引用:トラガール促進プロジェクト「トラガール促進プロジェクトについて」)

一方、大型運転免許を取得している女性は13万人以上いますが、職業ドライバーとして活躍しているのは、約6.1%の8,000人ほどに留まっています。

(画像引用:トラガール促進プロジェクト「トラガール促進プロジェクトについて」)

女性ドライバー活用のメリット

女性ドライバーを活用することにはいろいろなメリットがあります。

1. 企業イメージの向上

従来「男の職場」だったところに女性を積極的に増やすのですから、労働環境の改善も必要です。男性だけではなく、女性も働きやすい、安全で清潔な職場にする必要があるからです。
女性ドライバーの雇用を促進するには、安全管理や教育をしっかり行わなければいけませんが、その分、労働環境の改善に取り組む企業として評価が上がります。
運送会社であれば、国交省が推奨する取り組み「トラガール促進プロジェクト」に賛同することで社会的な信頼も得られます。また、女性ドライバーの割合はまだまだ少ないので、女性ドライバーを積極採用している貴重な会社であることもアピールできるというメリットもあることでしょう。

2. コミュニケーションの円滑化

従業員に女性が増えると、従業員同士の会話が活発になる傾向があります。男性ドライバーにも良い影響が出て、そうした会話に参加するようにもなるかもしれません。
従業員同士の会話が増えると、そこに経営者も参加することで従業員の率直な意見を聞けるため、社内の風通しが良くなります。
社内の風通しが良くなるということは、職場の雰囲気が良くなるということです。従業員の率直な声を元にして安全な職場環境を整備すれば、女性だけではなく、中高年男性も働きやすくなるでしょう。

3. ドライバー不足の解消

少子高齢化もあって多くの業界で若い労働力が不足しています。職業ドライバーも同様です。
もともと「男の職場」だったので、従来の人材募集も若い男性向けが中心だったわけですが、男性ドライバーに依存するだけでは、人手不足問題はますます深刻化するばかりです。「若い男性」ではなく、未経験でもやる気のある女性を育成すれば、その会社は女性の応募が増えるでしょう。業界全体にまだ女性が少ないのが現状ですから、「同僚に女性がいる」ことは女性ドライバーとして働きたいと考える女性にとって安心材料になり、「女性が働きやすい職場」という証拠にもなります。
また、女性ドライバーが働きやすい環境はすなわち「誰もが働きやすい」ということであり、若者が求める職場環境にも通じているので、若者の採用促進にも効果を期待できます。

4. 営業力の強化

女性ドライバーの積極採用に力を入れると、人手不足を補えるだけではありません。女性ならではの繊細で、ていねいな仕事振りが定着することで、会社としての営業力強化になるでしょう。
女性は細かい点に気づいたり、配慮が行き届いたりすることが多いため、業務の改善につながります。また、女性トラックドライバーは荷の扱いや対応がていねいなので、荷主からの評判が良くなるに違いありません。
いろいろな場面に女性ならではの視点から多様な提案がなされれば、営業力強化・経営向上につながります。

女性ドライバーを採用するためにできること

女性ドライバーを採用するには、女性にとって魅力的な職場、女性も働きやすい職場にし、それをアピールする必要があります。

1. 労働環境の整備

まず、社内に女性向けの設備の整備です。
男女共用トイレがある事業所は多くありますが、男性用とはきっちり分け、女性専用のトイレが用意されている事業所は多くありません。増設が難しい場合も、すでにある共用トイレの1つを女性専用に変えるなどの工夫で対応も可能です。化粧ができるように、鏡のある女性用更衣室スペースもあると良いでしょう。また、女性は非喫煙者が多いので、分煙にも配慮が必要です。
そして、「会社にあるとうれしい設備」としてシャワー室を挙げる声が多いようです。
このように、女性は男性以上に職場に「清潔感」を求めます。設備、施設をそうした今の時代のニーズに合わせることで労働環境を整えると、女性に魅力的な職場をアピールできるようになるかもしれません。

2. 勤務体系や制度の整備

女性が働きやすい職場の実現には施設や設備だけではなく、勤務体系、制度も見直す必要があります。日本ではまだまだ育児の多くの部分を女性が担っているので、育児支援の制度や設備の充実は欠かせません。
また、子どもを持つ女性を正社員として積極採用することは、女性にとっても大いに魅力的な求人になります。特にシングルマザーはできるだけ長く勤務を続けることを希望するので、会社にとってもありがたい存在となるでしょう。
逆に、育児のために勤務時間が限られてしまう女性も多くいます。パートの女性のシフトを組み合わせ、複数の女性で正社員と同じ仕事をこなせるように工夫すれば、さらに女性たちに活躍してもらうことができます。
また、パートの女性たちには短距離輸送を担当してもらい、育児から手が離れた時に、希望する女性にキャリアアップを提案するようにしていくと、女性たちのモチベーションアップにもなります。

女性トラックドライバーが活躍している企業の例

既に女性ドライバーの採用を進めている会社もあります。そこでは女性ドライバーがイキイキと活躍し、その仕事振りが得意先からも高く評価されています。

愛知県瀬戸市のM株式会社様

性別や国籍を問わず、個々のドライバーの事情にできる限り配慮した運行管理により、あらゆるドライバーにとって働きやすい職場づくりに努めている同社。
その実現には、なるべくコストをかけずに工夫を重ねたそうです。例えば、事務所から離れた駐車場には女性用トイレがなかったので、女性ドライバーが夜中に事務所内のトイレを使えるようにしました。
そして同社では、女性ドライバーの存在が会社全体の雰囲気を良くしているそうです。女性は総じて仕事が正確で、細かい気配りが得意な上、得意先とのコミュニケーションもうまく、荷物の確認でもミスが少ないようです。
また、安全意識が高くて運転もていねいで、比較的燃費の良い運転をし、常にトラックをきれいに手入れするなど、社内でも高く評価されています。

岡山県岡山市の株式会社Y岡山営業所様

同社では、女性ドライバー雇用のためにさまざまな工夫をしています。
女性用宿泊施設は、営業所近くにアパートを借りて確保しました。また女性ドライバーには、重すぎる荷物を手作業で積み下ろしする仕事は担当させず、パレットを使う荷物やティッシュペーパーなどの軽い荷物の仕事を任せるように努めているそうです。
女性ドライバーの仕事への熱意、ていねいな仕事ぶりは、男性に比べて引けは取りません。例えば、後で荷下ろしすることを考え、ラベルが見えやすいように配置して荷を積んだり、破損しにくいように、うまく組み合わせて積むなど、効率的で安全な仕事の進め方をします。
また、女性ならではの細やかな品質チェックは男性ドライバーにも良い刺激になっています。元気に、ハツラツと仕事をする姿が好評で、得意先からの女性ドライバーの評判もとても良いです。
経営者も、女性という偏見は持たないほうが良いと実感。女性のやる気の高さは社内の活性化にもつながっているそうです。女性ドライバーを活用するには、会社の業務を見つめ直して女性ができる仕事をつくり、積極的に女性の活躍を促すことが重要だということです。

神奈川県厚木市のT株式会社厚木支店

全日本トラック協会による全国トラックドライバー・コンテスト女性部門の優勝者もいて、運転技術が社内で認められているのはもちろん、得意先からもその女性ドライバーが指名されることがあるようです。
トラック運送業界は、かつては「3K」と言われることがありましたが、今は荷の積み下ろしもパレットとフォークリフトで行ったり、以前のイメージほど重労働ではなくなってきました。労務管理もきっちりと行われ、女性も活躍しやすくなってきています。
そんな同社ではもともと男女の区別なく採用していて、20年ほど前から女性ドライバーが在籍。求人の条件には男女差を設けていませんが、業務内容には男女の体力差を考慮するようにしています。
また、更衣室など女性用設備は以前から整っていて、育児休業・短時間勤務・母性健康管理・セクハラ防止などの社内規程も設けています。
取り引き先にも、女性ならではの視点に立った女性ドライバーの行動は高く評価されています。さらに、物腰の柔らかい雰囲気が、取り引き先との関係性を良好なものにしてくれている場面も多いそうです。
女性の活躍のために女性を特別扱いするのではなく、男性も女性もお互いを補える関係性、尊重し合える関係性を、会社の風土としていることが、女性雇用を成功させている要因のようです。

 

まとめ

業界全体で大きな課題となっている人手不足に対抗するために効果的なのが、女性ドライバー採用の促進です。
職業ドライバーの業界はどこも、従来は「男の職場」だったので、そこに女性を増やすとなると施設や設備のみならず、労務管理、制度を含めて職場環境そのものを見直す必要があります。しかし、女性ドライバーが活躍することで取り引き先からの評価が高まったり、社内にも良い影響が出たり、単に人手不足を補う以上のメリットも出ています。
従来の在り方を変えるのは大変かもしれませんが、そこも工夫次第のようです。

 

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運送業界で働くドライバーさんに役立つ情報や気になるネタを楽しく、分かりやすくお届けします!
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