運送会社の業務において、ドライバーによる事故は最も避けたいトラブルです。輸送業務に影響が出ることはもちろん、ドライバーや他者の命を失うこともあります。安全対策を担う担当者は責任を受け止め、適切な事故防止策をドライバーへ指導しなければいけません。
今回は運送会社で新たに安全対策の担当者になる方に向けて、安全対策の重要性ならびに事故防止に関する指導方法を解説します。
運送会社で安全対策の教育が重要な理由
貨物自動車運送会社のドライバー業務は、長時間の運転になることも珍しくなく、ドライバーにかかる負担も少なくありません。もし運転中にドライバーの調子が悪くなってしまった場合、一般車両を巻き込む大きな事故に繋がる恐れがあります。
大きなトラックは馬力も強く、積み荷の重さもあるため、事故を起こしてしまった場合の威力は計り知れません。一般車両や通行人、ドライバー自身を巻き込み、命に関わる事故になる可能性もあります。
だからこそ運送会社では安全に業務を遂行するためには、安全対策が最重要課題と言っても過言ではありません。担当者は、「ドライバーが安全に業務を行うためにどうすべきか?」「安全のために改善すべき点はないか?」など常に思考を巡らせておくことが必要です。
事業用貨物自動車の事故状況
実際に事業用貨物自動車による事故がどれほどあるのかご存知でしょうか。公益社団法人 全日本トラック協会によると、大型・中型・準中型・普通トラックが起こした死傷事故数は以下の通りです。
大型 | 中型 | 準中型 | 普通 | 合計 | |
令和1年 | 4,753 (870) | 3,413 | 2,764 | 699 | 11,629 |
令和2年 | 3,970 (685) | 2,671 | 2,261 | 547 | 9,449 |
令和3年 | 4,103 (754) | 2,586 | 2,170 | 556 | 9,415 |
※ 大型の( )内の値は、トレーラーで大型の内数
事業用貨物自動車が起こす事故は年々減少傾向にありますが、年に約9,500件近い事故が起きています。事業用自動車の業態別死者数でもトラックが最も多いという結果も出ており、トラックを扱う運送会社はリスクが高いことがわかります。
また、令和3年の死傷事故で見られた事故状況は、以下の順番で多くなっています。
- 追突(駐車・停車中)・・・3,765 件(40.0%)
- 出会い頭衝突・・・870 件(9.2%)
- 左折時衝突・・・627 件(6.7%)
- 追越・追抜時衝突・・・594 件(6.3%)
- 車両相互(その他)・・・588 件(6.2%)
- 進路変更時衝突・・・571 件(6.1%)
- 追突(進行中)・・・561 件(6.0%)
- 右折時衝突・・・547 件(5.8%)
- 横断中・・・397 件(4.2%)
- 後退時衝突・・・374 件(4.0%)
令和3年の死傷事故の半分は、追突事故系が半分を占めています。原因はさまざまなものが考えられますが、輸送中はぶつかることも・ぶつかられることもありえると言えます。
ドライバーが事故を起こさない・巻き込まれないためにも、指導・対策を具体的に実施していくことが必要です。
※参考:公益社団法人 全日本トラック協会「事業用貨物自動車の交通事故の発生状況」
※引用:公益社団法人 全日本トラック協会「事業用貨物自動車の死傷事故の状況」「事業用貨物自動車の法令違反別死傷事故の状況」
ドライバーの事故防止のための指導と対策
運送会社の安全対策として、担当者ができるドライバーの事故防止策は以下の4つがあります。
- 輸送計画に余裕を持たせる
- 点呼でドライバーの状況をチェック
- ドライバーに休憩・睡眠確保を徹底させる
- ドライバーとの連携を向上させる
指導方法の各ポイントを続けて解説していきます。
輸送計画に余裕を持たせる
輸送計画には余裕を持たせるようにしましょう。
積み荷の輸送計画がギリギリだと、間に合わせるためのドライバーの負担が大きくなります。体調不良があっても休むことができない、または渋滞や事故の遅れを取り戻すために無理な運行をする状況に追い込んでしまいかねません。急かされ過ぎてドライバーの不調や不注意を招けば、事故に繋がる恐れがあります。
利用する道路状況や不測の事態も考え、ドライバーが余裕を持って運転できるように計画を立てましょう。
点呼でドライバーの状況をチェックする
ドライバーの乗務前は体調を把握するために、点呼で入念にチェックを行うことも重要です。点呼でドライバーの状況を客観的に見ることで、事故に繋がる不調にいち早く気がつくことができます。
なお、点呼では次の5つのポイントで飲酒の有無や心身の健康などを確認をしていきます。
- 声音や表情の様子
- 睡眠不足はないか
- 疲労・病気はないか(心身ともに)
- 飲酒の有無(目視確認とアルコールチェッカー)
- 熱中症や感染症の兆候はないか
ドライバーの様子を目視で確認することで、ドライバーが言いにくい不調をうかがい知れるかもしれません。
また、乗務後も点呼があります。その際も、過度に疲れた様子はないか、過労状態から体調不良になっていないかなどを気遣うことが必要です。
点呼については「運送会社の「点呼」業務は法律で義務付けられている!点呼の確認事項や違反した場合の罰則も徹底解説」の記事でも詳しく解説しています。
ドライバーに休憩・睡眠確保を徹底させる
ドライバーに休憩・睡眠確保を徹底させるよう指導することも大事です。輸送業務での疲れが度重なり、十分なパフォーマンスができない状態が続くと、不注意や体調不良で事故を起こしてしまうかもしれません。
そのため、しっかりドライバーが休憩・睡眠を取るように管理をし、休憩を取らずに無理をすることがないよう空気作りも行ってください。中間地点などでドライバーに休憩・睡眠の取得状況を確認するのも良いでしょう。
なお、貨物自動車運送事業の休憩・運転時間は、厚生労働省が定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によって次のように定められています。
運転時間の基準 | 休憩時間の基準 |
● 連続運転は4時間まで
● 1日の運転時間は9時間まで ※2日平均として
|
● 連続運転が4時間以上は30分休憩を取る
● もしくは10分以上の休憩を分散して取る ● 1日勤務後は連続8時間の休息を取る |
貨物自動車のドライバーが連続運転できるのは、最大4時間までです。(2日平均として計算)運転が4時間を超えたら必ず30分の休憩を取らなければいけません。または4時間のうち、10分以上の休憩を分散して取るようにします。
ただ、2日にわたる輸送のケースでは、1日乗務後は連続8時間の休息を取らなければいけません。法令や基準を参考に、ドライバーが疲れを溜めないよう気遣っていきましょう。
※参考:厚生労働省「トラック運転者の労働時間等の改善基準ポイント」
※参考:e-Gov法例検索「労働安全衛生法 第六十六条の八」「労働安全衛生規則 第五十二条の二」
管理者といつでも連絡ができる体制を構築する
ドライバーが体調不良などで運行不能になったとき、素早く対応できる体制も構築しましょう。「代わりはいないから言いだせない」「迷惑がかかるから」「責任を取らされるかも」など、ドライバーが不安から不調を言いだせなくなるのは良くありません。
どのような些細な体調変化もいち早く相談できるようにすれば、無理がたたって事故を起こすことを減らせます。ドライバーが体調不良をすぐに報告できるよう体制を築き、万が一の際は他のドライバーで業務を代われるよう連携体制も構築しましょう。
運送会社でできる安全教育
運送会社で新たに安全対策を担当する方は前任の方法に則り、ドライバー管理を始めることが多いでしょう。しかし、より事故を起こさない、巻き込まれないようにするためには都度、新たな安全教育をしていくこともおすすめします。
ここからは運送会社内でできる安全教育についてご紹介します。
ドライバー向けのマニュアルを活用する
国土交通省で公開している、「運転者に対する教育ー事業用自動車の安全対策」を安全教育の資料として活用してみてください。同マニュアルは運送会社向けのドライバーに向け、指導・教育のポイントをまとめたものです。業態別やドライバー種類別の安全対策の要点もわかりやすくなっています。
外部機関に一任することであらためて注意すべき点の認識もしやすくなり、ドライバーが危険行為を理解するのを助けてくれます。社内講習に加え、ぜひ活用を検討してみてください。
※参考:国土交通省「運転者に対する教育ー事業用自動車の安全対策」
乗務する心構えを周知させる
管轄するドライバーには乗務する際の心構えを周知させましょう。事故を未然に防ぐためには、ゆとりある気持ちや気を引き締める意識など、考え方も重要になります。
なお、乗務の心構えは、特に次の4つをポイントに指導を行ってみてください。
- 慣れても油断しない・・・自身の経験で油断せず、常に周囲に注意を向ける
- 周りを思いやる心を持つ・・・周囲の運転者・通行者を思いやり、通行を譲り合う
- 焦らない・怒らない・・・焦りや怒りを抑え、危険運転を招かない
- エコドライブを意識する・・・急発進・急停止を避けてゆとりある運転をする
車の運転は過信や自分中心の考え方・感情に囚われることで不注意を招き、事故を起こしてしまうことも少なくありません。担当者は意識的な部分も指導を行い、事故を未然に防ぎましょう。
安全対策の講習を実施する
安全を守ることへの意識を高めるために、定期的に安全対策の講習を実施するのもおすすめです。警察署は事故防止策として、企業向けに交通安全講習を実施してくれます。
講習では実際によくある事故要因や交通事故の状況などを解説し、危険を可視化することで、習慣のなかに隠れていた危険にも気がつきやすくなります。
また、あわせて交通ルールの復習や運転時の心構えなどの指導も可能です。ドライバーの認識を改めることで、運転時の意識向上にも繋がるので検討してみてください。
事故防止の取り組みで安全な運転を促そう
運送事業は事故リスクが非常に高い仕事です。所属するドライバーたちがなるべく事故を起こさないようにするためには、安全対策の担当者に継続的な取り組みが求められます。なかでも輸送計画の余裕とドライバーとのコミュニケーションは重要課題となります。
輸送計画や対応にゆとりがあれば、ドライバーが無理する状況になりにくく、体調不良にも対応する余裕ができます。また、ドライバーとスムーズにコミュニケーションが取れる信頼関係を構築することも大事です。事前の相談で事故を防げるかもしれません。
本記事を参考にぜひ事故を防ぐための安全対策を実施していきましょう。