近年、運送・物流業界では、高齢化や労働環境の悪化によるドライバー不足が深刻化しています。「ホワイト物流」に参加し、自社のイメージアップやアピールポイントを検討している方もいるでしょう。
この記事では、「ホワイト物流」の基本を解説します。また、推進運動に参加するメリットや参加するためのステップ、課題についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
「ホワイト物流」とは?背景や目的を理解しておこう
「ホワイト物流」とは、正式には「ホワイト物流」推進運動のことで、国土交通省物流・自動車局貨物流通事業課が主導しています。
この章では、「ホワイト物流」推進運動が求められる背景や目的をご紹介します。
「ホワイト物流」推進運動が求められる背景
「ホワイト物流」推進運動が求められる背景として下記が挙げられます。
- ドライバー不足の深刻化と高齢化
- ドライバーの労働環境が悪化
- 働き方改革関連法の影響
近年、ドライバーの高齢化や少子化が原因で、ドライバー不足が深刻化しています。また、長距離を走るトラック運転手の拘束時間や、荷主側の都合による待機時間の長さが、ドライバーの労働環境を悪化させている原因になっているといえるでしょう。
ほかにも、2019年から施行された物流業や運送業の働き方を改善する「働き方改革関連法」も、ホワイト物流の取り組みに影響を与えています。これらを「2024年問題」と言われているのをご存じの方も多いでしょう。
運送・物流業界の2024年問題に関しては、下記の記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
「運送・物流業界の2024年問題とは?業界の課題と解決策。」
「ホワイト物流」推進運動の目的
「ホワイト物流」推進運動の目的は下記のとおりです。
- トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化
- 女性や60代の運転者等も働きやすい、より「ホワイト」な労働環境の実現
深刻化が続くトラックドライバー不足に対応し、国民の生活や産業活動に必要な物流を安定的に確保するとともに、経済の成長に寄与することを目的としています。
「ホワイト物流」推進運動のメリット5つ
「ホワイト物流」推進運動に取り組むメリットは下記の5つが挙げられます。
- 業務の効率化・生産性の向上が期待できる
- ドライバーの働きやすい環境構築・安全確保ができる
- 二酸化炭素の排出量の削減・SDGsへの取り組みにもつながる
- 企業のイメージアップにつながる
- 補助金の申請時に評価される可能性がある
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
業務の効率化・生産性の向上が期待できる
「ホワイト物流」推進運動への取り組みにより、物流の効率化が進み、生産性の向上が期待できます。例えば、ITやデジタル技術を導入することが挙げられるでしょう。AIによる配車システムや物流システムによって、最適な物流管理が行えるようになります。
ほかにも、自社の業務プロセスの見直しもでき、倉庫内作業員の負担を軽減することにもつながるでしょう。
ドライバーの働きやすい環境構築・安全確保ができる
物流の効率化や最適化を図ることで、ドライバーの時間的な負担を軽減し、より安全な業務の遂行ができるようになるでしょう。
2024年4月には、トラック運転者の時間外労働における上限規制(年960時間以内)が適用され、ドライバーの労働環境を改善することも定められています。これらの取り組みが、乗客だけでなく、ドライバーの安全確保にもつながるのです。
二酸化炭素の排出量の削減・SDGsへの取り組みにもつながる
物流の効率化により、二酸化炭素の排出量の削減が可能となり、脱炭素に向けた取り組みとして、企業の役割を果たすことにもつながります。
また、女性の活躍推進や労働環境の整備を進めることで、SDGsへの取り組みにも貢献できるでしょう。
企業のイメージアップにつながる
「ホワイト物流」推進運動の賛同企業として国土交通省から公表されるため、自社のイメージアップにつながります。
人材募集の際にも、「ホワイト物流」推進運動企業というアピールポイントにもなり、応募者から選ばれやすくなる可能性があるでしょう。
補助金の申請時に評価される可能性がある
補助金の申請時に、「ホワイト物流」推進運動に賛同していることが評価されることがあります。
例えば、「モーダルシフト等推進事業補助金」「グリーン物流パートナーシップ優良事業者表彰」では、「ホワイト物流」推進運動の取り組みを行っているか確認項目があります。
今後も、「ホワイト物流」推進運動に参加している企業には、優遇措置が取られる可能性があるでしょう。
「ホワイト物流」推進運動に参加するためのステップ
「ホワイト物流」推進運動への参加手順は下記のとおりです。
- ステップ1:「自主行動宣言」の必須項目への賛同表明する
- ステップ2:自社で取り組む項目を選定する
- ステップ3:自主行動宣言を作成し事務局に提出
それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
ステップ1:「自主行動宣言」の必須項目への賛同表明する
「ホワイト物流」推進運動の趣旨を理解して、「自主行動宣言」の必須項目に合意し、賛同表明をする必要があります。
「自主行動宣言」の必須項目は下記の3つです。
取組方針 | 事業活動に必要な物流の持続的・安定的な確保を経営課題として認識し、生産性の高い物流と働き方改革の実現に向け、取引先や物流事業者等の関係者との相互理解と協力のもとで、物流の改善に取り組みます。 |
法令遵守への配慮 | 法令違反が生じる恐れがある場合の契約内容や運送内容の見直しに適切に対応するなど、取引先の物流事業者が労働関係法令・貨物自動車運送事業関係法令を遵守できるよう、必要な配慮を行います。 |
契約内容の明確化・遵守 | 運送及び荷役、検品等の運送以外の役務に関する契約内容を明確化するとともに、取引先や物流事業者等の関係者の協力を得つつ、その遵守に努めます。 |
引用:「ホワイト物流」推進運動ポータルサイト(「ホワイト物流」推進運動への参加手順)
ステップ2:自社で取り組む項目を選定する
次に、下記の項目から取り組める内容を検討します。
A.運送内容の見直し | A① 物流の改善提案と協力
A② 予約受付システムの導入 A③ パレット等の活用 A④ 発荷主からの入出荷情報等の事前提供 A⑤ 幹線輸送部分と集荷配送部分の分離 A⑥ 集荷先や配送先の集約 他 A⑦ 運転以外の作業部分の分離 A⑧ 出荷に合わせた生産・荷造り等 A⑨ 荷主側の施設面の改善 A⑩ リードタイムの延長 A⑪ 高速道路の利用 A⑫ 混雑時を避けた配送 A⑬ 発注量の平準化 A⑭ 船舶や鉄道へのモーダルシフト A⑮ 納品日の集約 A⑯ 検品水準の適正化 A⑰ 物流システムや資機材の標準化 |
B.運送契約の方法 | B①運送契約の書面化の推進
B②運賃と料金の別建て契約 B③燃油サーチャージの導入 B④下請取引の適正化 |
C.運送契約の相手方の選定 | C①契約の相手方を選定する際の法令遵守状況の考慮
C②働き方改革等に取組む物流事業者の積極的活用 |
D.安全の確保 | D①荷役作業時の安全対策
D②異常気象時等の運行の中止・中断等 |
E.その他 | E①宅配便の再配達の削減への協力
E②協力引越時期の分散への協力他 |
F.独自の取組 | F①独自の取組 |
引用:「ホワイト物流」推進運動ポータルサイト(「ホワイト物流」推進運動への参加手順)
ステップ3:自主行動宣言を作成し事務局に提出
「ホワイト物流」推進運動ポータルサイトより様式をダウンロードし、自主行動宣言を作成して提出用のフォームより事務局に提出します。提出時期は決まっておらず、いつでも提出可能です。
早期の取り組みが推奨されているため、取り組みやすい項目からはじめ、徐々に内容を充実させていくとよいでしょう。
上記の流れで自主行動宣言の提出後、賛同企業の名前が公表されます
「ホワイト物流」推進運動における課題
「ホワイト物流」推進運動への取り組みには、下記のような課題があります。
- 取組項目の進捗管理や把握が必要になる
- 輸送コストの上昇が懸念されている
- 荷主との取引に影響が出る可能性がある
それぞれの課題について詳しく見ていきましょう。
取組項目の進捗管理や把握が必要になる
「ホワイト物流」推進運動に参加すると、取り組みを管理していく必要が出てきます。
例えば、労働時間や走行距離等を適正に管理するために、システム導入が必要になるでしょう。また、品質を確保するために、適正な運送スケジュールの管理が求められます。
輸送コストの上昇が懸念されている
「ホワイト物流」推進運動の実現には、ドライバーの賃金を含む労働環境の見直しが必要とされており、輸送コストの上昇が懸念されています。
しかし、適切な利益率で高品質な物流を安定供給するためには、輸送コスト上昇が避けられないのが現状です。
荷主との取引に影響が出る可能性がある
輸送コストの上昇によって、荷主企業側でも物流費用の引き上げが問題となる場合があります。
物流費用の上昇により、荷主側の負担に大きな影響があると判断されると、取引自体がなくなる可能性もあります。運送業者と荷主が、配送費の値上げについて綿密に料金設定の話し合いをする必要があるでしょう。
「ホワイト物流」推進運動の取り組み事例
この章では、「ホワイト物流」推進運動に取り組んでいる3社の事例をご紹介します。
- 異業種間の共同輸送を開始|サントリーロジスティクス株式会社・大王製紙株式会社
- トラック待機時間・倉庫終了時間の削減|タカラスタンダード株式会社
- 冷凍倉庫業・作業改革|株式会社フードレック
それぞれの事例内容を詳しく見ていきましょう。
異業種間の共同輸送を開始|サントリーロジスティクス株式会社・大王製紙株式会社
サントリーグループと大王グループは、関東・関西間の長距離輸送において両社グループの製品を混載した共同輸送を開始しました。
サントリーグループの重い飲料製品を積んだ後、トレーラー上部の空きスペースに大王製紙の軽い紙製品を混載することで、積載率の向上・輸送の効率化を進めています。
また、リレー形式で輸送(スイッチ輸送)することで、トラックドライバーの運転距離を短縮したり労働時間を削減したりして、労働環境の改善に取り組んでいます。
トラック待機時間・倉庫終了時間の削減|タカラスタンダード株式会社
タカラスタンダード株式会社は、パレット自動倉庫を活用した仮置き・荷揃えを実施することで、倉庫内作業の効率化とトラック待機時間の削減を実現しました。
また、高床“L”型バースを活用し、トラックの横と後ろの両方から積み卸し作業を可能とすることで、入出荷作業がスムーズとなり、トラック待機時間の削減につながっています。
冷凍倉庫業・作業改革|株式会社フードレック
株式会社フードレックでは、トラックドライバーの待機時間・作業時間短縮のため、倉庫作業内容改善計画を実施し、庫内作業時間短縮を図ることで拘束時間短縮を実現しています。
また、作業員の高齢化を解決すべく年代別に作業内容の区別化を行い、年配社員の作業負担軽減体制計画も同時に実施しています。
「ホワイト物流」推進運動に関する気になる質問
この章では、「ホワイト物流」推進運動に関して気になる質問を、3つ厳選してご紹介します。
- 「ホワイト物流」推進運動はいつから始まった?
- 「ホワイト物流」推進運動に賛同している企業はどれくらい?
- ホワイト物流と2024年問題の関係性は?
3つの質問内容を詳しく見ていきましょう。
「ホワイト物流」推進運動はいつから始まった?
「ホワイト物流」推進運動は、2019年に始まりました。物流業界において健全で安心して働ける労働環境の実現を目指す取り組みを目的としています。
「ホワイト物流」推進運動に賛同している企業はどれくらい?
多くの企業が、運動への賛同を表明しており、令和6年12月6日時点で、「ホワイト物流」推進運動の賛同企業は「2991社」となっています。
ホワイト物流と2024年問題の関係性は?
トラックドライバーの人手不足の深刻化により、「モノが運べなくなる」という物流危機が問題視されていることを「物流2024年問題」と言われています。
国土交通省が中心となり、物流機能を安定的に確保する取り組みが「ホワイト物流」推進運動です。2024年問題と「ホワイト物流」推進運動は関連しているといえるでしょう。
「ホワイト物流」推進運動は高品質で安定した運送の実現に必要な取り組み
「ホワイト物流」推進運動が求められている背景は、ドライバー不足の深刻化・高齢化やドライバーの労働環境の悪化、働き方改革関連法が影響しています。
トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化、女性や60代の運転者等も働きやすい、より「ホワイト」な労働環境の実現を目的としており、参加企業も増えています。
業務の効率化・生産性の向上、ドライバーの労働環境の改善など、さまざまメリットが得られる反面、取り組みの管理や輸送コストの上昇、取引への影響などが課題です。
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