昨今の物流業界では、ドライバーの高齢化と深刻な人手不足が問題視されています。2024年1月の運送業全体の有効求人倍率は3.39倍であり、全産業の求人倍率が1.21倍に比べ2.18倍も高いことが分かりました。
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このような人手不足の問題解決の糸口として、注目されているのが「モーダルシフト」です。今回の記事では、モーダルシフトの説明とメリット・デメリットを解説した上で、実際にモーダルシフト導入に踏み切った企業の例を紹介していきます。
モーダルシフトが生まれた理由
モーダルシフトは、物流業界の人手不足問題を解決する糸口として注目を集めていますが、誕生した背景やモーダルシフトの内容とはどのようのものなのか見ていきましょう。
物流業界の現状
物流業界では、労働環境が整っていないというイメージから労働者の新規募集が進んでおらず、物流業界全体で高齢化が進んでいます。一方で、オンラインショッピングの利用者数は増え続け、EC事業への需要の高まりは物流業界への需要の高まりへと伝播しています。
物流業界にとって、労働環境の改善と効率的な運送手段の確立が急務となっているのです。
引用:ドライバーズジョブ「トラックドライバーの人手不足の原因と運転手人口の推移がまるわかり」https://driversjob.jp/contents/driver/j72
モーダルシフトとは
モーダルシフトとは、トラックなどの自動車によって行われてきた物流ラインを、船舶や鉄道に変更することを言います。一度の多くの荷物を運ぶことができる船舶や鉄道を使うことで、自動車から排出される多くのCO2を削減するという目的をもとに、1980年代に省エネルギー対策として推奨された考え方です。
参考:国土交通省「モーダルシフトとは」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/modalshift.html
モーダルシフトの必要性
モーダルシフトは、CO2の削減という地球環境の問題を解決するために生まれた動きですが、近年では物流業界の人手不足の問題においても期待が高まっています。国土交通省は、「モーダルシフト等推進事業」を打ち出しており、モーダルシフト導入の際の調査事業の経費に対して支援を行うなどの取り組みも行っています。
参考:国土交通省「モーダルシフト等推進事業」
https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/ms_subsidy.html
引用:国土交通省「モーダルシフト等推進事業 令和3年度PDF」
https://www.mlit.go.jp/common/001403314.pdf
モーダルシフトのメリット
では、モーダルシフトの導入は地球環境や物流業界にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
CO2排出量が抑えられる
国土交通省によると、2021年度の主要な貨物輸送手段別の「輸送量当たりの二酸化炭素の排出量」は、自家用貨物車が1124g‐CO²/t km、営業用貨物車が216g‐CO²/t km、船舶が43g‐CO²/t km、鉄道が20g‐CO²/t kmと発表しています。
現在、物流業界では長距離輸送においても多くの企業が営業用貨物車での輸送を行っています。モーダルシフトにより船舶や鉄道へ輸送手段を変更することでCO2の排出量が大幅に削減できることが期待できます。
引用:国土交通省「輸送量あたりの二酸化炭素の排出量」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html
ドライバー不足を解消できる
現在の物流業界において主流であるトラック等の営業用貨物車は、一台につき2~3人のドライバーが必要とされています。そのため、複数人で交代制で行ってきた長距離の貨物輸送が、モーダルシフトにより船舶や鉄道に変わることによりドライバーの負担を減らすことになります。
また、モーダルシフトにより長距離の輸送が船舶や鉄道に変わられるとはいっても、終着点から届け先までの輸送にはドライバーが必要になります。そのため、雇用が失われることはなく、業務内容の改善が測られることとなるので、新規のドライバー志願者も増加することが期待できます。
輸送効率の最大化
輸送を行う際に、船舶や鉄道を利用した場合、一度に大量の荷物を輸送することが可能です。一方、トラック等の貨物車を利用した場合は、複数台の貨物車が必要になったり、交通渋滞や運転トラブルにより同時に荷物の搬入作業ができなくなったりするといった問題が生じます。このように、貨物の輸送の際に船舶や鉄道を利用することは、業務効率の最大化にもつながるのです。
補助金を受けられる
モーダルシフトの導入により、国や地方公共団体から補助金の交付が受けられることも多きなメリットです。国土交通省は、「令和3年度『モーダルシフト等推進事業』(補助事業)」の募集を2021年5月11日〜2021年6月11日の間で行い、上限金額・助成額は1,000万円に上るなど大々的にモーダルシフトへの後押しを行っています。各地方自治体ごとに受けられる補助金の額や募集条件が異なりますので、是非一度あなたの住む自治体の取り組みを調べてみてください。
モーダルシフトのデメリット
一方で、モーダルシフトが日本において進んでいないのも実情として存在します。では、なぜモーダルシフトが進んでいかないのか、その理由とモーダルシフトのデメリットについて見ていきます。
輸送時間が長引く
工場から納入先までの間をトラック等の貨物車で輸送する場合とは異なり、船舶や鉄道を利用することで、その出発拠点への移動時間と、終着拠点からの移動時間に加え、早めに搬入した場合でも船舶や鉄道の出発時間まで待たなければなりません。鮮度が命の野菜や魚介といった食料の搬入には不向きといった側面があります。
積み替え作業が発生する
工場での貨物車への積み込み、船舶や鉄道の出発拠点での積み替え、終着地点で再度の積み替え、納入先での積み下ろしという4つの荷物移動が必要になってくるため、積み込みの際に荷物がつぶれてしまう、温度変化に対応できないというリスクもはらんできます。また、ドライバー業界の人的負担は解消されますが、荷物移動の作業が追加されることで積み替え作業員の負担が増えてしまい、搬入チェーン全体でみたときに人的負担が軽減されていないという指摘も存在します。
ダイヤの乱れや天候による遅延の可能性
船舶や鉄道はダイヤの乱れや天候により発着時間が大きく変化します。波の高さや突発的な強風による影響で翌日納入を予定していたものが届かないといったことは十分に考えられます。しかし、近年ますます脅威を増している巨大台風の列島接近や未曽有の大雨災害、巨大地震の発生などにより、交通インフラの麻痺が見られると自動車輸送であっても被害は受けます。このような場合においても、道路交通網による自動車のほうがインフラ復旧の目途が早く立ちやすいといった面も考慮するべきです。
輸送コストが高くなる
モーダルシフトは前提として、長距離移動における輸送に対しての提案です。そのため、500㎞以内の短距離、中距離の移動はモーダルシフトの導入によりむしろコストが高くなる可能性があります。しかし、国土交通省や地方自治体によるモーダルシフト推進の取り組みとして補助金の交付が進んでいます。そのため、補助金の利用ができれば500㎞以内であっても輸送コストの高さが参入の際の高いハードルとなって、問題視されるほどにはならないでしょう。
モーダルシフトを導入した企業
ここまで、モーダルシフトの基本情報やメリット・デメリットについて解説してきました。それでは実際にモーダルシフトを導入している企業はどのような成功を収めているのでしょうか?実例を3つ紹介していきます。
事例1 ヤマト運輸
物流業界の大手ヤマト運輸は、業界の問題に対処するために先駆けてモーダルシフトの導入を行っています。取り組みの内容としては、これまで陸路でトラック輸送を中心に行っていた九州関東間の運行ラインを、福岡をベースに集約して鉄道網を駆使してまとめて関東に輸送し、羽田クロノゲートと呼ばれる関東拠点を中心に輸送を行うというものです。
これにより、年間約2,300台のトラックの削減に成功したヤマト運輸は、日本物流団体連合会主催「第13回 モーダルシフト取り組み優良事業者公表・表彰制度」において「モーダルシフト最優良事業者賞(大賞)」を授与されています。
引用:ヤマト運輸株式会社「ヤマト運輸がモーダルシフト最優良事業者賞(大賞)を受賞」
https://www.yamato-hd.co.jp/news/h27/h27_75_01news.html
事例2 佐川急便
佐川急便では、電車型特急コンテナ列車「スーパーレールカーゴ」を実施しています。日本貨物鉄道との共同開発した車両は、1便に積載できる荷物の量が10トントラック56台分に相当し、モーダルシフトのメリットを享受ゆるには十分な規模となっています。
また、同社では鉄道とタクシーの利用により、トラックドライバーの負担軽減を行っており、比較的輸送頻度が低い地方の輸送にタクシーを利用するというユニークな輸送方法が話題となっている。
引用:佐川急便「【佐川急便】乗用タクシーを活用した貨客混載事業を開始乗用タクシーによる荷物の集荷は全国初の取り組み(2018/10/26)」
https://www2.sagawa-exp.co.jp/newsrelease/detail/2018/1026_1362.html
事例3 日本マクドナルド
モーダルシフトの導入による雇用者への負担軽減措置は、ヤマト運輸や佐川急便などの物流業界だけでなく、日本マクドナルドのような独自の物流システムと巨大なサプライチェーンをもっている企業にも必要な働きです。日本マクドナルドでは、ハンバーガーを包むための包装紙の輸送を、トラック輸送から鉄道コンテナ輸送に転換しました。これにより、CO2排出量を従来の65%まで減らすとともに、ドライバーの運転時間を75%削減することに成功しています。
引用:日本マクドナルド「配送業務の効率化で省エネ」
https://www.mcdonalds.co.jp/sustainability/environment/efficient_delivery/
まとめ
物流業界では、EC事業の需要が高まりを見せる中、ドライバーの人手不足問題が深刻化しているため、モーダルシフトによる業務効率の改善と労働環境の整備の必要性が高まってきています。「工場から納品先まで1台のトラックで輸送する」という既存の物流の常識を覆すということは、まだまだモーダルシフトの課題も残る現状において決して簡単ではありません。
しかし、物流を支える大手の企業や独自のサプライチェーンを持つ企業が率先してモーダルシフトに取り組み、業務効率を上げて先例を作ることで、「物流の未来」は明るいものになっていくのではないでしょうか。