コロナ禍により物流の需要は高まり、2024年問題と呼ばれた時間外労働時間の法改正も重なったことで、運送業ドライバーの人手不足は深刻化しています。
そこで、ドライバーの新規採用に伴い、給料体系の見直しを検討している運送会社の経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
しかし、ドライバー職の給料体系や労働時間の管理は他の業種よりも特殊な上に、歩合制が多いため、残業代の未払いを巡った労務トラブルに発展するケースも少なくありません。
そこで、この記事ではドライバーの給料体系や職種別の平均年収、給与制度を構築する際に気を付けるべきポイントなどを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
職種別|ドライバーの給料体系・給与の仕組み
ドライバーの給料体系は、運送業のトラックドライバー、タクシーなど職種によって異なるため、ここでは、トラックドライバーとタクシードライバーに分けて給料体系を解説します。
運送業トラックドライバーの給料体系
運送業のトラックドライバーの給料体系は、主に以下の3つの種類が挙げられます。
- 固定給(基本給)+手当+固定残業
- 固定給(基本給)+手当+残業手当+歩合給
- 完全歩合給+残業手当
1の「固定給(基本給)+手当+固定残業」は、運送業のドライバーの給料体系で一番多い支払い方法です。毎月固定の給与にプラスで残業代や手当が支給される仕組みです。
2の「固定給(基本給)+手当+残業手当+歩合給」は、1の給料体系に歩合給も追加されたもので、定期便などが多い中小規模の運送会社で多い給料体系です。
3の「完全歩合給+残業手当」は個人の業績次第で給料が変動するため、最低賃金が保証されない可能性があるという点から基本的には違法とされていますが、一定の要件を満たせば労働契約においても認められる給料体系です。
運送業のドライバーの給料体系は、運行距離や時間、形態によって適切とされる制度が異なります。
その理由としては、エリアが限られている地場の輸送と、定期便、長距離のドライバーが同じ給料体系では、ドライバーのモチベーションや法令遵守の点でも問題が発生してしまうからです。
みなし残業代制
ドライバーの給料体系で上記で挙げた以外で多いのが、「みなし残業代制」という仕組みです。
みなし残業代制は、「毎月一定時間の残業をすることを前提として、決められた残業代を定額で支払う」というものです。
固定給の中に残業代も含まれていたり、何時間残業しても毎月決まった残業手当が支払われる場合は、「みなし残業代制」と言えるでしょう。
ただし、決められた時間以上に残業した場合でも残業代が変わらない場合は、違法とみなされる可能性が高いため注意が必要です。
みなし残業代制自体は違法ではありませんが、雇用契約書等にて毎月何時間の残業に対してみなし残業代が支払われるという内容を明記する必要があるため、雇用契約書や就業規則に詳細を記載する必要があります。
タクシードライバーの給料体系
タクシードライバーの勤務体系は大きく分けて、以下の3種類が挙げられます。
- 隔日勤務
- 日勤勤務
- 夜勤勤務
隔日勤務は、タクシードライバーで一番多い働き方で、2日分を休憩を挟みながらまとめて働くため、安定した収入を得ながらも休日をまとめて取れるといったメリットがあります。
日勤勤務は、大体7時から17時くらいまで1日8時間ほど働くため、生活リズムも崩れにくく体への負担も少ないのが特徴です。
夜勤勤務は、日勤勤務の人と交代する流れで、大体17時から夜中の2時くらいまで働きます。深夜帯はタクシー運賃が深夜割増になるため、日勤勤務と比較すると収入が高くなる傾向にあります。
A型賃金・B型賃金・C型賃金
タクシードライバーの給料は、形態や地域によっても異なり、賃金の種類にはA型賃金、B型賃金、C型賃金、AB型賃金という種類があります。
A型賃金は、一般企業の会社員の給料体系と同じような仕組みで、売上や走行距離に関係なく毎月決められた固定給と賞与や手当がもらえます。
B型賃金は、歩合給制で売上や走行距離によって給料が変動します。
自分が稼いだ分に応じて給料がもらえるので、モチベーションも上がりやすく高収入を目指せるといったメリットはありますが、収入が不安定というデメリットもあります。
C型賃金もB型賃金と同じ歩合給制ですが、B型賃金が月間の売上と歩合の割合で給料を算出するのに対して、月間の売上からガソリン代などの費用を差し引いた額が給料として計算される給料体系で、リース方式と呼ばれることもあります。
AB型賃金は、A型とB型を組み合わせた体系で基本給にプラスして、手当や賞与、歩合がもらえます。安定した収入を保証しつつ、実績によって収入が増えるため、昨今多くのタクシー会社で採用されている賃金制度です。
職種別|ドライバーの平均年収・昇給の有無
ここでは、運送業のトラックドライバーとタクシードライバーの平均年収と昇給の有無や仕組みについて解説します。
トラックドライバーの平均年収・昇給
厚生労働省が発表した令和3年度の「賃金構造基本統計調査」によると、運送業のトラックドライバーの平均給料は、月給32万9,800円でした。
年間賞与や手当、特別支給額の総額は50万5,300円なので、平均年収に換算すると約446万円になります。
トラックドライバーの賞与は運送会社によって異なりますが、年に2回支給されるところが多く、運転するトラックの大きさや輸送距離、給料体系、年齢によっても給料や昇給の内容は変わります。
※引用:厚生労働省|賃金構造基本統計調査
タクシードライバーの平均年収・昇給
「賃金構造基本統計調査」によると、賞与や手当を含むタクシードライバーの平均年収は約489万円でした。
ただ、10〜99人規模の事業所の場合は、平均年収が321万円、100〜999人規模の事業所では約375万円、1000人以上規模だと約430万円といった別のデータもあることから、事業所の規模によっても平均年収は異なるようです。
また、前の見出しで説明したように日勤勤務か夜勤勤務かなど、勤務体系によっても平均年収に幅があるでしょう。
※引用:厚生労働省|賃金構造基本統計調査
給料体系別|トラックドライバーの残業代・各種手当
運送業のトラックドライバーはその業務内容から長時間勤務になりやすいので、残業代の額も必然的に大きくなります。
そのため、ドライバーと運送会社の間で残業代の支払いを巡るトラブルも少なくありません。
残業代のルールに関しては、労働基準法にて定められていますが、支払い方法など具体的な内容は特に規定されていません。
ここでは、運送業のトラックドライバーの残業代や、各種手当の支払い方法や種類を解説します。
別立て支払い方式
別立て支払い方式は、基本給とは別に残業代を支払う方式です。
歩合給と残業代が同じ扱いになっている場合もありますが、仮に歩合給制だとしても残業代は発生します。
給料体系がどのような形でも、1日の労働時間が8時間を超えるか週40時間を超えた場合は、超過した時間の残業代が発生することが法律で決められています。
その際は、通常の賃金より25%増しの賃金を支払うことが、労働基準法第37条第4項によって定められています。
※引用:労働基準法施行規則
固定払い方式(残業代組み込み型)
固定払い方式は、毎月の基本給の中にすでに残業代が含まれている形の支払い方式です。
他にも「定額残業制度」「固定残業制度」「残業代組み込み型」とも呼ばれます。
例えば、毎月40時間の残業が予測できている場合は、40時間分の残業代を固定手当として毎月給料にプラスして支払うといった形です。
固定支払い方式で多いトラブルとしては、決められた時間を超えて残業した分が支払われないというケースです。
固定支払い方式だとしても、固定残業代に含まれた労働時間を超えて労働した場合は、その差額を追加で支払うことが法律で決められているため、ドライバーの労働時間の管理はしっかり行いましょう。
※引用:労働基準法施行規則
各種手当
運送会社のドライバーがもらえる手当は、残業代以外にも以下が挙げられます。
- 役職手当
- 皆勤手当
- 深夜手当
- 無事故手当
- 住宅手当
- 家族手当 など
深夜手当は、原則として22時から5時までの間に労働した場合に支給されます。
無事故手当は、運行中の交通事故や荷物の破損、紛失などを起こさなかったドライバーに対して支給されるもので、法律で定められているものではありませんが、月1〜3万円程度の無事故手当を支給している運送会社が多いです。
しかし、ドライバーに過失がない事故や荷物のトラブルが発生し、それらの損害をドライバーに全額負担させることは法律では認められていないため、トラブルや事故発生時の損害に関する取り決めは、労働規約に記載しておくことをおすすめします。
ドライバーの給与制度を構築する際の注意点
ここでは、ドライバーの給与制度を見直し、構築する際に重要なポイントや、運送業の労働基準法違反の実情、過去の事例などを解説します。
給与制度を構築する際のポイント
ドライバーの給料制度を構築する際は、労務トラブルに発展しないように、コンプライアンス(法令遵守)対応型の制度にする必要があります。
給与制度の構築で重要な点は、主に以下が挙げられます。
- 労働基準法の労働時間や休日に関する項目の理解
- 労働基準法施行規則の歩合給に関する項目の理解
- 労働基準告示の理解
コンプライアンスに対応した給与制度にする最大の目的は、残業代の未払いを防止することです。
労働基準法を理解すると聞くと難しく感じてしまいますが、ドライバーの労働時間の管理を適切に行った上で、時間外労働手当や休日労働手当、深夜労働手当を適切に支払うといった基本的なことです。
運送業の労働基準法違反の実情・事例
ドライバーの人手不足という問題は、物流が機能しなくなるだけでなく、残業代の未払いや長時間労働の常態化といった労務トラブルに発展する原因になります。
しかし、ドライバーの給料体系や労働時間の管理は特殊なため、違法となってしまうケースの判断がつかない場合も少なくありません。
実際、2016年に東京労働局が都内の運送業事業者に行った臨検監督の結果では、対象となった168の事業者のうち、134の事業者に労働環境の法令違反が確認され、その割合は79.8%になります。
違反内容としては、労働時間の超過や残業代の未払い、休日に関する内容が多くみられました。
過去には、運行管理者が、トラックドライバーに労働時間を大幅に超過した過労運転をさせた結果、高速道路で事故を起こし死傷者が出た交通事故事件が発生し、道路交通法と労働基準法違反として、運行管理者に懲役1年6か月、運送会社には罰金50万円が科された事例もあります。
引用:東京労働局|平成28年の都内の道路貨物運送業に対する臨検監督結果
労務トラブルに発展しないように、ドライバーの給料体系を見直そう
コロナ渦から物流の需要は増え続けており、それに伴って運送業のトラックドライバーは常に人手不足という業界の課題があります。
また、歩合制が多いドライバーの給料体系では、ドライバーと運送事業者間で残業代の未払いや、労働時間を巡った労務トラブルが少なくありません。
人手不足を解消するため、給料体系を見直し求人を出そうと検討している人事担当者や経営者の方は、労働基準法に則ったコンプライアンス対応型の給与制度を構築するようにしましょう。