近年、運送・物流業界では、法改正による2024年問題や深刻な人手不足など、取り巻く環境が厳しくなってきており、課題解決に向けた取り組みが重要視されています。
物流が滞ると、消費者だけでなく運送会社の利益にも大きな影響が出てしまうでしょう。
そこで今回は、運送・物流業界の現状や課題について解説します。課題への対応方法や物流DXが注目されている理由、運送・物流業界の今後の展望も併せてご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
運送・物流業界の現状とは
運送・物流業界の課題を知る前に、まずは現状を把握することが大切です。この章では、運送・物流業界の市場規模や消費者動向の変化、経営状況について解説します。
物流・運送業界の市場規模
矢野経済研究所が7月22日に発表した「物流15業種総市場に関する調査結果」によると、物流の市場規模は、2019年から20兆円を超えて推移しており、2023年度は23.4兆円の見込みとのことです。
また、2024年度は24.2兆円、2025年度は24.8兆円と予測されており、年々、上昇傾向にあることが分かります。
消費者動向の変化
新型コロナウイルスの影響により、ECサイトの需要が増加し、市場規模も拡大し続けてきました。
また、ハンドメイド作品の売買やフリマアプリなどを利用する個人も増え、個人間の取引で宅配便を活用する機会が増加しています。
ECサイト利用の拡大により、消費者はより迅速で正確な配送サービスを求めるように変化しています。特に「翌日配送」「当日配送」などのニーズが高まっており、これらが物流業界の負担を大きくしているのが現状です。
物流・運送業者の経営状況
物流業界の大半は中小企業が占めています。近年の物価上昇に伴い、消費行動の低迷や燃料費の高騰、人手不足などの影響が企業の経営を圧迫しています。
また、倒産やM&A(企業買収・合併)の増加で競争が激化しており、物流・運送業者の経営状況は悪化傾向にあるといえるでしょう。
運送・物流業界の課題【一覧】
物流・運送業界では、市場規模の拡大に伴う需要にサービスの供給が追い付いておらず、さまざまな課題を抱えています。主な課題は下記のとおりです。
- 燃料費高騰への対応
- 2024年問題への対応
- 人手不足への対応
- 配送荷物の多頻度小口化への対応
- 荷待ち・荷役時間削減への対応
- 再配達による負担増加への対応
- デジタル化(DX化)への対応
- CO2排出量削減への対応
それぞれの課題について詳しくみていきましょう。
燃料費高騰への対応
近年、石油価格の上昇により、燃料費の高騰がコストを圧迫していることも大きな課題となっています。
世界情勢や経済的な影響による燃料費高騰を少しでも抑えるためには、代替エネルギーの導入や、配送ルートの最適化等による使用燃料の効率化をしていく必要があるでしょう。
2024年問題への対応
2024年4月に適用された「トラックドライバーの労働時間規制」により、年間960時間を超える時間外労働が禁止されました。
労働時間の規制により、これまでの体制で長距離輸送をすることが難しくなっているのが現状です。今後、配送遅滞や対応できない荷物も増えてくる可能性があることが懸念され「2024年問題」と称されています。
このような2024年問題に対応するため、労働環境の整備やドライバーの採用、業務効率の向上が大きな課題となってきているのです。
人手不足への対応
現在の運送・物流業界では、増えている需要に対してドライバー数が確保できていないです。そのため、ドライバー1人あたりの負担が増加しており、長時間労働やサービス品質の低下につながるリスクが高まっています。
また、少子高齢化による新たな働き手が不足しているのも現状であり、今後ドライバー不足に拍車がかかることも予想されています。人手不足は運送業全体で深刻化しており、大きな課題の1つです。
配送荷物の多頻度小口化への対応
近年、ネットショッピングの宅配だけでなく、個人間でやり取りができるフリマアプリの普及も影響し、輸送の多頻度小口化が増えています。
配送回数が増えることにより、ドライバーへの負担増加や管理コストの増大にもつながっているため、多頻度小口化への対応も急務を要しているといえるでしょう。
荷待ち・荷役時間削減への対応
長時間の荷待ちが、ドライバーの労働環境悪化に影響を及ぼしているのも大きな課題の1つです。
運送以外にかかる時間を削減することが、ドライバーの拘束時間を少なくして効率的な配送が行えることにつながるでしょう。
再配達による負担増加への対応
商品の再配達は、ドライバーだけでなく業界全体にとって大きな負担となっています。
受取人からすると、無料で便利に利用できる再配達ですが、運送する業者側にとっては、ドライバーの労力や時間、コストの浪費につながっているのです。
再配達への対応をどう解決するかによって、経営に大きな影響を与えるでしょう。
デジタル化(DX化)への対応
運送・物流業界では、業務のデジタル化の遅れが課題となっています。例えば、在庫管理や配送ルートの設計が挙げられるでしょう。
これらの業務は、手間がかかるうえに、遂行する方の経験年数などによって必要な時間が大きく異なります。デジタル化することで、在庫管理やルートの最適化にかかる時間を圧縮や精度の向上ができます。
しかし運送業者は、中小企業が多くを占めており、ITシステムの導入に投資できない企業も多いです。結果として、作業効率を改善できず、コスト削減に取り組めないのが現状です。
CO2排出量削減への対応
日本政府は、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す方針を発表しており、運送・物流業界でもCO2排出量削減への対応が求められています。
しかし、配送の多頻度小口化や積載率の低下などによるトラック稼働の増加が原因で、CO2排出量削減への改善が進んでいないのが現状です。CO2排出量を減らすためには、積載率の向上や配送ルートの最適化が大きな課題となってくるでしょう。
国土交通省が推奨する課題解決に向けた対策
国土交通省は、物流業界の課題を解決するための対策として「改正物流総合効率化法案」を推奨しています。
改正物流総合効率化法案とは、法人格で別の2つ以上の組織が連携して、物流業務の効率化を向上させるための法律です。この章では、国土交通省が推奨している下記の課題対策についてご紹介します。
- 共同配送を取り入れる
- 輸送網の集約
- モーダルシフト導入の推進
それぞれの課題対策について詳しくみていきましょう。
共同配送を取り入れる
共同配送とは、複数の運送・物流企業が連携して複数の荷主の商品を1台のトラックで配送することで、配送の効率化を図ることを指しています。
従来の個々に配送する方法では積載量に無駄が多く、ドライバーに負担が掛かっているうえに、人件費や燃料費などの配送コストが大きくなっています。
1台のトラックに荷物をできるだけ積み、積載量を最大化させることで配送を効率化できれば、配送回数を抑えることができ、ドライバーの負担や配送コストを抑えることができるでしょう。
輸送網の集約
現時点の輸送網は、輸送や保管・荷捌きの施設が各地に分散されており、各拠点への輸送が必要なため輸送効率が悪くなっているのが現状です。そこで、輸送効率を改善するため、各設備を集約した輸送連携型倉庫の設立を国は推奨しています。
輸送網を集約することで、運送コストや作業量が軽減されて、人材不足や配送スピードに関わる課題を解決することが可能になるでしょう。
モーダルシフト導入の推進
モーダルシフトとは「環境負荷の小さく積載量が大きい鉄道や船舶等の配送方法を導入」して、環境負荷を低減することを指しています。トラックによる配送より、業務効率を向上させることも期待できます。
配送時に排出されるCO2の量は、トラック(営業用貨物車)が208gであるのに対し、鉄道は20g(約1/10)、船舶は43g(約1/5)となっており、貨物輸送の方法を転換することで、鉄道利用では約90%、船舶利用なら約80%もCO2排出量の削減が可能です。
モーダルシフト導入は、人手不足や燃料費の高騰といった、さまざまな課題を解決できる取り組みです。
運送・物流業界の課題解決のために各社で実施すべき対策
運送・物流業界の課題を解決するためには、各運送業者でも下記のような取り組みが必要です。
- 物流DXを導入する
- 物流拠点や中継輸送を見直す
- 物流コストの適正化で労働条件を改善する
それぞれの対策について詳しくみていきましょう。
物流DXを導入する
物流における課題の解決には、デジタル技術を活用して自動化できるものを増やし、業務効率化することが重要です。
例えば、配車計画システムを使用した効率的な配送ルートの作成が挙げられます。また、動態管理システムの導入では、リアルタイムで車両の位置情報を把握することができるため、予測外のトラブルにも迅速に対応できるようになるでしょう。
さらに、倉庫内の自動化や在庫管理の効率化にも役立ちます。物流DXの導入は、今まで人が実施していた仕事の代替ができるため、人手不足への対策としても有効です。
物流拠点や中継輸送を見直す
物流拠点を増やすためには初期費用がかかりますが、適切な場所に拠点を増やすことで、配送しやすいルートの構築や在庫管理の改善ができます。
また、中継輸送の導入により、長距離運送で生じる人手不足や労働時間規制などの課題対策にもつながります。
さらに、災害時の業務停止リスクを軽減できる可能性があり、結果として顧客満足度の向上や業務の効率化が図れるでしょう。
物流コストの適正化で労働条件を改善する
物流コストには、人件費、燃料費、高速料金など、さまざまな費用が含まれています。
近年では、配送量の増加とともに配送料を抑える傾向にありますが、配送料を適正な価格に増やすことでドライバーの労働環境を改善し、運送業者の利益減少を抑えることにつながるでしょう。
消費者や荷主からすると、配送料を上げることで支払う金額が増加するため簡単には値上げをすることができないですが、荷主との運賃の交渉がまとまり、配送料の引き上げが実現できれば、運送会社の負担軽減や従業員の賃金アップなども可能です。
なお経済産業省では定期的に、価格交渉が思わしくない業界において、下請中小企業振興法による『指導・助言』の実施を検討しています。
運送・物流業界の課題は物流DXの導入が重要視されている
人手不足が深刻化している運送・物流業界では、物流DXの推進が重要視されています。ここでは、物流DXがなぜ遅れているのかを解説します。
物流DXが遅れている理由
物流DXは事業規模の大きい、一部の現場では導入が進んでいますが、物流業界全体でみるとIT・デジタル分野の人材が不足しているという理由で進んでいないのが現状です。
DXは、データの蓄積・可視化をするだけでなく、どう活用するかが重要です。
そのためデータ基盤の構築から活用するところまで実施できる高度な人材が必要になります。
物流業界に多い中小企業では簡単に人的リソースを確保することが難しいです。
仮に、IT・デジタルに詳しい人材がいたとしても、包括的なDX戦略をもって進めていくスキルを持たないケースが多いことも進まない理由の1つです。
物流DXを進めるためには、物流業界に携わるすべての労働者が現状の課題を把握して、必要性を理解するところから始める必要があります。
運送・物流業界はなくなる?今後の展望
運送・物流業界が無くなると噂される理由として、自動運転の開発やドローン配送、AIの発展などの研究が進んでいることが挙げられます。
しかし、技術の発展により実現する時代が来たとしても、運送・物流業界が無くなることはないでしょう。トラックドライバーは、配送業務が中心と思われがちですが、業務の受注、配送計画の作製、荷物の積み下ろし、顧客対応など、さまざまな役割を担っており、簡単にAIなどに代替されないからです。
とはいえ、新たな技術を取り入れることができれば、大きな利益を上げられる可能性があり、今後の展望は期待できるといえます。
運送・物流業界の課題は早急に対応していく必要がある
運送・物流業界は、年々市場規模も拡大していますが、ドライバー不足や労働時間の制限などにより、消費者が求めるサービスに対応ができなくなりつつあります。
ドライバーの労働環境の改善を図り、会社の利益を守るためには、さまざまな課題を解決していく必要があるでしょう。特に、物流DXの導入は、今後の経営に大きく関わってくると推測されます。
新技術やAIが発展したとしても、運送・物流業界がなくなってしまうことはありません。新たな技術に順応することにより、より大きな利益を生む可能性もあるでしょう。しかし、現状を改善するためには、ドライバーの確保も重要です。
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