人手不足の問題と中心に多くの課題が残る現在の物流業界において、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入により、サプライチェーン全体としての改革が急がれます。
今回の記事では、DXの基本情報と導入することによるメリットや課題、実際の企業例を解説していきます。DXの内容理解が深まるのみならず、物流業界の現状分析と課題解決の糸口を見つけるきっかけになると思いますので是非最後までご覧ください。
物流DXとは?
DXとは、デジタルトランスフォーメーションと訳されます。物流DXとは、「最新のデジタル技術を活用し、サービス内容を変革すると同時にビジネスモデルの変革も促すこと 」という意味を表します。つまり、AIやビッグデータを導入するIT化から一歩進み、より競争優位性のあるビジネスモデルへと変貌していくことを目的としているのです。
物流DX推進の背景
2021年6月、「総合物流施策大綱」という物流業界における指針が閣議により決定しました。「総合物流施策大綱」には、2021年度~2025年度の期間において、物流DXによる業界全体の活性化が「今後取り組むべき施策」として定められています。
EC需要の増大の影響もあり、物流業界への需要は今後ますます高まることが懸念されており、物流DXを導入することの必要性が国家レベルで推し進められています。
物流DXの取り組み
物流DXの具体的な取り組みは以下ようなものが挙げられます。
- 倉庫での在庫管理システム
- 顧客情報の分析にAIを利用する
- AIを活用したドライバーシフトの作成
物流業界では、在庫管理に書面やエクセルを利用している企業もあります。このような管理体制だとヒューマンエラーの発生により業務効率が落ちてしまう場合があります。そこで、ピッキングと同時に在庫カウントされるシステムを利用するなどが物流DXの取り組みの一つです。
また、配送先の家庭の外出時間予測や配達物の数や配達先を考慮したドライバーシフトの作成にAIを利用するなど、アナログな作業に代わることで業界全体で作業効率が高まる取り組みもあります。
物流DXが必要とされる理由
少子高齢化に伴うビジネスモデルの変革の必要性は、日本国内の全産業においてDXの需要という形で現れています。日本国内でDXに取り組んでいる企業の割合は2022年度では69.3%となり、2021年度の55.8%に比べると1年の間で13.5%増加している。しかし、全社戦略に基づいて取り組んでいる割合は米国が68.1%に対し、日本では54.2%となっており、会社全体での組織的な取り組みはさらに進めていく必要がある。
出典:情報処理推進機構(IPA)|DX白書2023 図表1-7https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf
日本企業の産業別に見たDXの取り組み状況では、「流通業・小売業」でとくに割合が高く、2021年度では54.1%だったが2022年度では73.1%に増加しています。しかし、全社全体で取り組んでいる割合は情報通信業の48.5%に比べ、流通業・小売業では21.7%と26.8%低く、全社での取り組みを進めていく必要があると考えられます。
出典:情報処理推進機構(IPA)|DX白書2023 図表3-3https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf
物流業界はEC需要の高まりによる小口配送が増加しています。これが深刻な人手不足の問題とも合い間って、ドライバー一人当たりの負担率が大きくなっています。
このように、物流業界の課題や事情と全産業においてもDXが進んでいないところからも分かる通り、物流業界にもDXの早急な導入が必要とされています。
物流DXを導入するメリット
最新のAIやビックデータなどのIT技術を利用することで、企業内の業務効率を図るだけではなく物流業界全体の活性化を図ることができます。ここからは、物流DXを導入した場合のメリットについて具体的に解説していきます。
物流が自動化・機械化できる
飛行機の自動操縦や自動車の自動運転などの技術が注目を集めている中で、物流の幹線輸送手段も自動化・機械化が可能となる未来がすぐそこまで来ています。近年行われた実験で、無人のトラックが一定の車間距離を保ちながら隊列走行するというものがありました。国土交通省と経済産業省は、2021年3月にトラックの後続車無人隊列走行技術の実現を発表するなど実用化の目途が経ちつつあるのが現状です。
ドライバー不足を解消できる
AIによる最適化された輸送ルートの設定や、無人走行可能な輸送車の出現は、現在の運送業界の中心的課題であるドライバー不足の解消を達成することができるでしょう。物流DXが推し進められたら、これまで管理業務や輸送業務、荷積みや積み替えなどの人の手によって行ってきた業務をAIや機械により行ってもらうことで大幅な人員削減が可能となります。そして、物流DXによって削減した人材を不足している業務に充てることで物流業界全体が一体となって円滑な流通、高品質なサービスの提供が実現できるでしょう。
輸送手続きの電子化によるコストの削減
物流DXが進めば、従来紙媒体で行われている伝票や注文書などの輸送手続きを電子化で行うことができます。書類の管理や不必要なやり取りがなくなるため、ペーパーレス化のよる経済効果は、物流業界全体で300億円超に及ぶとの試算もあります。
運送業務の見える化による業務効率の向上
鉄道やJRなどの公共機関の管制塔では、走行中の車両の位置や目的地への到着予定時刻などをリアルタイムで把握しているというイメージが付くと思います。このように、陸路や海上の輸送においても動態管理システムを導入することによって効率的かつ迅速な輸送が可能になります。リードタイムを縮めることにもつながるため、配送業者と利用者双方にとってのメリットとなるでしょう。
物流DXの課題
物流DXは、物流業界の課題に対処するための解決策として多くのメリットがあります。しかし、DXが最も進んでいない業界が物流業界という現状があるのも事実です。そこにはどのような課題があるのか解説します。
DXに詳しい人材の不足
物流DXを推進していく中で、「社内のリテラシー不足」「DX人材の不足」を課題としている企業が多くいました。また、運送業界の企業担当者向けの調査では、そもそもDXという言葉を理解していない企業が4割を超え、現場の浸透率が低いことが伺えます。
引用:「運送業界のDXに関する意識調査結果」https://doraducts.jp/column/chosa003/
拠点ごとの最適化された業務ルールの存在
DXは業務管理の分野や輸送手段を決定するうえで非常に有効な効率化の方法です。そして、物流業界におけるDXは多くの場合、輸送のフロー全体の変化を伴います。
しかし、物流業務はそれぞれの拠点ごとに扱う商品やサービスの違いや仕事内容に対応して工夫していることがほとんどです。そのため、物流業務をAIや自動運転、業務管理システムの導入と同時に一気に変えるということがしにくい傾向があります。
デジタルの導入がなくても現場が回る実情
物流業界にDXが浸透していない理由の一つとしてあげられるのが、物流業界で働く現場のスタッフが物流DXに関する理解に乏しいことです。例えば、物流業界で長らく仕事をしてきたベテランスタッフが、物流DXの一端として企業が導入したシフト管理アプリや最適輸送経路通達アプリの出した結論とは違う行動を起こしてしまう場合です。
また、現状で現場が回っているという感覚が、新しく導入される機能に対して嫌悪感を示す原因になることもあります。実際に、配送や管理といった業務は、人手不足に苦しみながらもこれまで人の手によって行われてきています。このように、物流業界の現場にいるスタッフのDXへの捉え方による課題があります。
技術進歩の必要性をはらむ
先述した通り、物流DXの取り組みとしてトラックの後続車無人隊列走行技術の発表や、幹線輸送手段も自動化・機械化は将来性があるものです。しかし、このような技術の新規導入は、初期投資額がかかることはさることながら、データの蓄積とイノベーションの発達といった技術進歩の必要性をはらんでいます。物流DXの取り組み内容には、即効性のある物だけではないことも考慮して慎重に取り組む内容を企業が精査する必要があります。
物流DXの事例
ここまで、物流DXを導入することのメリットと課題について解説してきました。ここからは、実際に物流DXを導入した企業についてどのような成果が出ているのか見ていきます。
事例1 日本通運株式会社
日本通運株式会社では、陸上輸送に係る一連の単純作業を作業ロボットやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することでDX化に成功しています。また、更なる効率化を図るために日本電気株式会社との連携を発表しました。IoTを活用した倉庫オペレーションの無人化への取り組み、遠隔操作の実現など中長期的視点でのアプローチも続けています。
引用:クラウドWatch「日通とNECが協業強化、DXによる価値共創により短期・中長期双方の取り組みを実施へ」https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1332861.html
事例2 ZARA
ZARAでは、製品の製造から販売までのサプライチェーンの高速化に注力をして物流DXを導入しているアパレル企業です。店頭商品の75%程度が3~4週間のうちに入れ替わる体制を目指しています。
物流DXの取り組みとしては、徹底した生産管理システムの導入と配送管理システムの導入を行っています。結果として、デザインを起こしてから38時間以内に店舗配送が完了する仕組みを作り、高速なサプライチェーンの成立に貢献しています。
事例3 JDL京東ロジスティクス
京東JDL京東ロジスティクスは、AIやビッグデータを活用した物流DXが進んでいます。同社では、無人車やドローンなどを用いた「無人配達技術」を研究する部隊とAI技術によるサプライチェーンの効率化を研究する部隊があります。
引用:softbank「JD.com「京東物流」はAI活用の自社物流網でアリババと差別化」https://www.softbank.jp/biz/future_stride/entry/techblog/sbc/china/20190702/
まとめ
物流業界における人手不足の問題とEC需要の拡大による、物流業界におけるDXの必要性の高まりは、ますます大きくなってきています。物流業界におけるDXは今や、国家レベルでその必要性が認められており、企業の物流DXの導入は急務ともいえます。
物流DXによるメリットは、現状の物流業界の課題解決のみならず、将来における物流業界の可能性を広げることにもつながるところにあります。しかし、物流業界を動かす現地のスタッフの理解の乏しさ、拠点ごとのルール、そしてデジタルの導入無くして物流は動いてしまっているという現状が物流DXを進めるうえでの課題となっています。
確かに、一気に物流DXによる変革を起こすのは難しい場合もあるはずです。まずは、DXが可能なところから取り入れていくことが大切なのではないでしょうか。