残業代の未払い請求ができる期間は、今まで2年間が時効でしたが、2020年4月1日に労働基準法が改正されてから、期間が5年に延長されました。(当面は3年間)
2020年4月以降に支払われる賃金に関しては、時効期間が3年となったことで請求される残業代の金額も1.5倍となり、請求額が上がったことで残業代請求の件数も今後さらに増加する可能性が高まっています。
運送会社の経営者や人事、経理を担当する人は、もし従業員から未払い残業代の請求がきたらどう対応したら良いのか悩む人も多いのではないでしょうか。
この記事では、ドライバーの未払い残業代が発生する原因から、請求がきたときの対応、トラブルに発展しないための対策について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
ドライバーの残業代未払いが発生する原因
そもそも、なぜ運送業のドライバーは残業代の未払いが発生しやすいと言われるのでしょうか。ここでは、ドライバーの残業代の未払いが発生する原因について解説します。
固定残業・定額残業制を採用している(固定費に残業代が含まれている)
ドライバーの給与体系に、固定残業制や定額残業制を採用している運送会社は少なくありません。
しかし、固定賃金の中に残業代が含まれていても、労働基準法が定める条件を満たしていない場合は、残業代の請求がくる可能性があります。
また、歩合制を採用しているからといって残業代を支払っていない運送会社も多いですが、歩合制であっても、時間外労働が発生した場合は、残業代を支払わなければいけません。
運送業のドライバーの給与体系は、他の職種と比べても特殊なため、まずは自社が採用している給与体系が、労働基準法に違反していないか見直すと良いでしょう。
運送業ドライバーの給与体系について、詳しく解説したこちらの記事がおすすめです。
内部リンク:https://doraducts.jp/column/034/
労働時間の管理があいまい
ドライバーの残業代未払いが発生してしまう原因として、運送会社がドライバーの労働時間をしっかり管理できていないというケースが多いです。
特に配送先から会社に帰るまでの時間を管理できていないことが多く、それが例え、1日に1〜2時間だとしても、3年分をまとめて請求された場合は多額になるため注意が必要です。
従業員が残業代を請求してくる場合は、弁護士に依頼した上で、タコグラフの記録開始から終了までを労働時間として主張してくることが一般的です。
2024年4月1日に法改正がされた時間外労働時間の規制に対応するためにも、出勤時間や休憩時間、退勤時間を会社側はしっかり管理しておく必要があります。
「2024年問題」と言われた法改正について詳しく解説したこちらの記事もご覧ください。
内部リンク:https://doraducts.jp/column/chosa005/
残業代請求の件数と金額が増えている背景
労働基準法の改正によって、運送業ドライバーが会社に対して残業代の請求をしてくる件数が増加しており、その金額も上がっています。
ここでは、残業代請求の件数と金額が増加している背景について解説します。
労働基準法改正で残業代請求の時効期間が伸びた
今まで未払いの残業代を従業員が会社に対して請求できる期間は、2年間でした。
しかし、労働基準法が改正されたことで、時効期間が5年間(当面は3年間)に延長されたことを機に、残業代を請求するケースが増えています。
また、期間が延長されたことで、1人あたりの残業代も増加しており、その請求額は数百万円から1,000万円を超える可能性があります。
2020年4月1日以降に支払われる賃金についての時効期間は、当面の間3年と言われていますがいずれ5年となるため、運送会社は、今から残業代を請求された時のリスクを把握し、対策をしておくことが非常に大切です。
「2024年問題」で法定時間外労働の割増率が25%UP
「2024年問題」と言われた労働時間外(残業)の規制に関する法改正に伴い、2024年4月1日以降、それまで対象外だった運送会社も、1ヶ月60時間を超える残業に対して50%以上で計算した残業代を支払わなくてはいけなくなりました。
仮に、深夜帯(22:00〜5:00)に法定時間外労働をさせた場合は、深夜割増賃金率25%にプラスして時間外割増賃金率50%なので、合計して75%以上の残業代が発生する計算になります。
残業代の算出方法でよく見られるのは、固定残業制を採用している場合、各種手当を含めた月の固定給を1ヶ月の労働時間で割り、1時間あたりの賃金を算出して残業代を決めるケースです。
しかし、この計算方法では、手当が含まれていないため、未払いの残業代が発生してしまう可能性が高く、注意が必要です。
ドライバーから未払い残業代を請求されたときの対応
ドライバーから未払い残業代の請求がされる場合は、弁護士を通して行われることが一般的です。ここでは、ドライバーから未払い残業代を請求された時の運送会社の適切な対応について解説します。
ドライバーからの請求・労働時間に関する資料の開示要求
未払い残業代の請求は、従業員本人からされることもありますが、多くの場合、従業員から依頼を受けた弁護士を通して、内容証明郵便でいきなり会社に届くというケースがほとんどです。
その際に、労働時間が把握できるタコグラフや運送作業日報、賃金台帳などの開示も求められる可能性が高く、仮に労働時間の管理を怠っていた場合は、従業員の言い分が全て通ってしまう危険性もあります。
特にトラブルになりやすいのが、会社が把握しづらい休憩時間や配送先から帰社する時間などで、中距離のトラックドライバーの残業代請求では、1,000万円前後になることも多いです。
ドライバーとの交渉・会社の反論
運送業ドライバーの未払い残業代を巡ったトラブルでは、運送会社と従業員が提示する労働時間が異なるケースが多いです。
また、残業代を算出する際の単価についても、双方で認識が異なり裁判に発展するケースも少なくありません。
仮に運送会社が、歩合制を採用している場合は前の見出しで解説した「割増率」も争点となるでしょう。
ドライバーから未払い残業代を請求されたときの注意点
ここでは、従業員から未払い残業代を請求された時に、会社がすべき対応とその際の注意点について解説します。
請求を無視すると高額の残業代を支払うことになる
従業員から依頼を受けた弁護士から送られてきた未払い残業代請求の内容証明は、無視してはいけません。
仮に、内容証明やタコグラフや賃金台帳などの開示請求を無視してしまうと、弁護士は証拠隠蔽や改ざんの恐れがあるとして裁判所に証拠保全の申し立てをします。
弁護士が裁判所に証拠保全の申し立てを行うと、裁判官や裁判所書記官の代理人が突然会社に訪れ、労働時間や賃金が把握できる資料の開示を求めてきます。
さらに、従業員が労働審判を申し立て、裁判所から出廷を命じられても会社側が無視し続けた場合は、申立人である従業員の主張が全て通ってしまい、最悪の場合、会社の売掛金や財産を差し押さえられることになります。
適切な金額を支払うために弁護士に相談する
従業員から未払い残業代を請求された時は、無視をしてはいけませんが、会社の弁護士に相談せずに和解するのも避けるべきです。
信頼できる弁護士がいない場合は、運送業の労働問題に精通している弁護士を探して相談しましょう。
従業員が請求している残業代の額が妥当なのか、残業代を支払う際に双方で取り決める内容はどうするべきかなど、専門家に確認した上で進めることが大切です。
残業代を巡った労務トラブルに発展させないための対策
ここでは、残業代を巡って従業員と労務トラブルに発展させないために、運送会社ができる対策について解説します。
未払い残業代の請求がきてから対応するのは会社にとっても大変なため、そのような請求がこないように事前に防ぐことが大切です。
固定残業代制を導入する
一般的に残業代は残業時間に応じて支払われますが、その時間に関係なく毎月一定の残業代を支払う仕組みが「固定残業代制」です。
固定残業代制は、多くの運送会社で採用されている給与体系で、従業員のモチベーションアップや残業時間を抑制できるといったメリットがあります。
しかし、固定残業代制を採用する際は、以下の点に注意が必要です。
- 労働基準法に則った労働契約であること
- 固定残業代にあたる部分は、固定給と明確に区分すること
- 残業時間が固定残業代で決められた時間を超えた場合は、割増賃金を支払うこと
就業規則を見直す
従業員の給与体系を変更する際は、就業規則も変更しなくてはいけません。
就業規則を変更する場合は、仮に従業員にとってプラスになる変更だとしても、従業員への説明と同意が必要になります。
就業規則の変更で従業員との間でトラブルに発展しないために、変更する目的も含めて丁寧に説明を行い、従業員の同意を得てから給与体系を決めるようにしましょう。
勤怠管理システムを導入して自動化する
従業員の労働時間を正確に把握できない原因として、勤怠の締め作業が影響しているケースが多いです。
勤怠の締め作業が遅れてしまうと、時間外労働の超過を見落とす可能性が高くなってしまいます。
締め作業を効率化するためには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。トラックに掲載されているタコグラフや運行管理システムと連動して、労働時間や休憩時間を自動で集計してくれるため、労働時間を正確に把握することが可能です。
運送業ドライバーの労務管理の基準や、勤務時間の上限について解説したこちらの記事も合わせてご覧ください。
内部リンク:https://doraducts.jp/column/012/
労働時間の管理体制を整え、未払い残業代を発生させないことが大切
労働基準法の改正によって、ドライバーから運送会社への未払い残業代の請求件数は今後さらに増加していくと予測されます。
請求できる期間が2年から5年(当面は3年)に延長されたことで、1人あたりの請求額も数百万円から1,000万円前後といった高額になる可能性が高く、請求された時に運送会社のリスクは大きいです。
残業代を請求されないために、まずは現状の給与体系や労働時間の管理方法を見直しましょう。勤怠を正確に把握するためには、勤怠管理システムを導入し、自動化することをおすすめします。