車両を使う事業では、タコグラフ(運行記録計)で運行記録を残すことが一般的です。しかしタコグラフで記録した運行記録は、いつまで保存しておく必要があるのでしょうか。
多くの車両業務を扱う事業所では、扱う情報量も膨大となるため記録や管理も大変です。必要性がどこまであるのか知らないと、保存の意義も理解しづらいです。
そこで今回は、事業所で運行情報を新たに担当する方に向け、タコグラフの保存期間について解説します。タコグラフの役割や保存する義務の範囲までわかりやすく紹介するので、担当者の方はぜひ参考にしてください。
トラック車両に必要なタコグラフとは?|運転日報との関係
タコグラフは、トラック・バス・タクシーなどの営業車両に取り付けられる「運行記録計」です。運行記録として、走行した距離や速度、走行時間や状況などを記録します。ドライブレコーダーと違い、映像ではなく数値を観測する役割があることが特徴です。タコグラフで運行情報を記録することで、ドライバーの運行状況や勤務状況などを知ることができます。
なお、タコグラフはすべての事業車両に搭載しなければいけないわけではありません。規則上は旅客自動車(バスやタクシー)や貨物自動車(事業用トラックなど)に搭載が義務づけられています。これらの車両を扱う事業では、必ずタコグラフが必要になるでしょう。
また、タコグラフ=運転日報のイメージを持っている人もいますが、正確には少し異なります。運転日報とは、自動車へ乗務があったドライバーが日時と共に、運転手情報・走行距離・給油量・車両点検結果などを記録するものです。運転日報のうち、走行距離などはタコグラフを使用して記録します。
つまり、運転日報は乗務毎のドライバーによる記録を指し、タコグラフは運行記録を記録するツールを指します。
タコグラフの保存期間は最低1年
タコグラフの保存期間は、国土交通省が定める規則によって1年の保存が義務づけられています。該当する規則は、「旅客自動車運送事業運輸規則」「貨物自動車運送事業輸送安全規則」「道路交通法施行規則」の3つです。
各規則の詳しい内容は次の通りです。
第二十六条 一般乗合旅客自動車運送事業者及び一般貸切旅客自動車運送事業者は、運転者等が事業用自動車の運行の業務に従事した場合は、当該自動車の瞬間速度、運行距離及び運行時間を運行記録計により記録し、かつ、その記録を一年間保存しなければならない。
※引用:e-Gov法例検索「旅客自動車運送事業運輸規則 第二十六条」 |
第八条 一般貨物自動車運送事業者等は、事業用自動車に係る運転者等の業務について、当該業務を行った運転者等ごとに次に掲げる事項を記録させ、かつ、その記録を一年間保存しなければならない。
※引用:e-Gov法例検索「貨物自動車運送事業輸送安全規則 第八条」 |
第九条 法第六十三条の二第二項に規定する運行記録計による記録の保存は、次の各号に掲げる事項を明らかにして行なわなければならない。
一 記録が行なわれた年月日 二 記録に係る自動車の登録番号 三 記録に係る運転者の氏名 四 記録に係る主たる運転区間又は運転区域 ※引用:e-Gov法例検索「道路交通法施行規則 第九条」 |
なお、貨物自動車は車両総重量8トン以上、または最大積載量4トン以上のトラックにタコグラフ搭載が義務化されています。
労働基準法上は5年保存がおすすめ
国土交通省令では保存期間は1年が義務ですが、実際のタコグラフの保存期間は5年間がおすすめと言えます。運送業においてタコグラフは、ドライバーの労働状況を示す情報となるためです。
労働基準法では、労働者情報の保存を次のように義務づけています。
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
※引用:e-Gov法例検索「労働基準法 第百九条」 |
「タコグラフの保存」として明記されているわけではありませんが、タコグラフは運送業では労働関係の書類という立ち位置であるのは事実です。実際にドライバーの情報を求められた場合、タコグラフの情報が必要になることもありえます。
そのため、結果的にはタコグラフの保存は5年間保存するのが安全と言えるでしょう。
タコグラフを保存しないリスクについて
タコグラフを保存しない場合、次の3つのリスクがあります。
- 業務の分析ができない
- 事故などのトラブルの際に状況がわからない
- 労働者から訴訟された場合に証明できない
運送業では日々、旅客・輸送ルートの分析が必要です。どれほどの荷物を何日で運べるのか、また旅客業務なら運転ルートの研究などもあります。これらの分析はタコグラフによる詳細な運行記録がなければ難しく、業務改善にも繋げにくくなってしまうのです。
また、ドライバーが事故やトラブルに巻き込まれた場合、タコグラフの記録がなければ、起きた状況を知ることや証明する術を失います。労働者から訴訟された場合も同様です。万が一、企業側に問題がなかった場合も証明ができません。
タコグラフの搭載と保存は形骸化された義務ではなく、いざという時に重要な記録として役立ちます。運送業を営む企業や担当者は、責任がある重大な仕事として取り組むことが求められるでしょう。
また、もしタコグラフの記録に不備があった場合は「運行記録計不備」、タコグラフを搭載していなかった場合は「記録義務違反」となります。運転者や運行管理責任者が処罰の対象となるほか、未装着の場合は30日間の車両使用停止の処分を受けるため注意してください。
※参考:e-Gov法例検索「道路運送車両の保安基準」「道路交通法」「貨物自動車運送事業輸送安全規則」
※参考:国土交通省:「貨物自動車運送事業者に対し行政処分等を行うべき違反行為及び日車数等について」
タコグラフの種類
タコグラフは、大きく分けて2種類あります。どちらも規則上の保存期間は一緒ですが、扱い方が多少異なります。管理をするうえでは自社で搭載している種類にあわせ、特性を理解することが必要です。
ここからは2種類のタコグラフについても見ていきましょう。
デジタルタコグラフ【通称デジタコ】
デジタルタコグラフ(通称デジタコ)は、正式にはデジタル式運行記録計と言います。名に冠している通り、記録方法がSDカードなどのデジタル媒体であることが大きな特徴です。
走行距離・速度・時間も細かく計測でき、一般道や高速道路など通過箇所ごとに自動的に記録することもできます。
また、基本機能以外にもさまざまな機能を兼ね備えている製品も多いです。製品によっては位置情報から警告を出す機能や運転状況の評価などもでき、ドライバーをフォローすることができます。
アナログタコグラフ【通称アナタコ】
アナログタコグラフ(通称アナタコ)は、用紙に記録をするアナログ方式の運行記録計です。走行距離・速度・時間・状況などが円形のチャート紙に自動的に記録されます。アナタコも機器による記録ですが、用紙に記録するため、デジタコ登場後はアナログ方式として位置されました。
また、アナタコによる運行記録は線によって記されます。そのため、ドライバーや管理者はチャート紙に残された「線の記録」を解析する知識が必要です。
デジタコとアナタコの相違点
デジタコとアナタコの相違点は、次の3つがあります。
デジタコ | アナタコ | |
①保存方法 | メモリーカードへ自動保存 | 運行後チャート紙の解析が必要 |
②解析に必要な能力 | 誰でも確認ができる | 専門的知識が必要になる |
③機能性 | 運行情報+運転手フォロー機能 | 運行情報のみ |
デジタコの運行記録は「走行距離」「速度」など各項目を自動的にメモリーカードなどに記録されるため、持ち出しや検索・管理などが簡単です。
一方、アナタコの場合は線の記録から運行記録を解析をしなければならず、読み解く専門的な知識が必要です。アナタコに精通した人材でないと扱いづらい側面は否めません。
また、デジタコはさまざまな機能を併用することもできますが、アナタコは簡単な運行記録のみに特化しているという相違点もあります。
近年では、機能面や記録の見易さからデジタコが選ばれることが多いですが、アナタコは費用面で安価という特徴があるため、どちらを導入しているかは業者判断によって異なる点です。
タコグラフを保存・管理する方法
タコグラフを含めた運行記録は、乗務ごとに行うものです。管理担当者はドライバーから都度、提出してもらう必要があります。
なお、デジタコとアナタコのデータの受け取りは、次の違いがあります。
- デジタコ・・・ドライバーによる操作で出力・WEBサーバへ提出
- アナタコ・・・タコグラフのチャート紙を提出
タコグラフを提出してもらう場合は運転日報と共に提出してもらうことが一般的です。運転日報に各種情報の記入後、タコグラフと共に提出をしてもらいましょう。
提出後は記録の確認を行い、ドライバーごとにデータもしくは紙媒体で保存します。記録はいつでも確認するできるよう、しっかりと整理整頓しておきましょう。
運転日報に記載される項目
タコグラフ(運行記録)と共に提出してもらう運転日報には、記載事項があります。管理担当者はあわせてチェックしていく必要があるため、項目についても理解しておきましょう。
なお、運転日報は「一般貨物自動車運送事業」か、「一拠点に5台以上の車両を有する事業」かによって記録項目が異なるため注意してください。前者はトラック運送業、バス・タクシーなどの運送業や社用車を持つ事業は後者が当てはまります。
運転日報のそれぞれの項目は次の通りです。
一般貨物自動車運送事業 | その他 |
|
|
※車両総重量8トン以上、または最大積載量5トン以上の貨物自動車トラックの場合に記載
運転日報のフォーマットは決まっておらず、事業所ごとの所定の方式で作成されていることが一般的です。
また、記録自体も紙媒体でもデジタル媒体でも問題はありません。そのため、デジタルタコグラフを導入している事業所の場合は、運転日報も同時に記録できるタイプを使用していることもあります。
タコグラフと運転日報にまつわる疑問
タコグラフを含む運行記録を新たに記録を担当する方は、関連する知識も身につけておくと安心です。最後にタコグラフと運転日報に関連する、よくある疑問を集めました。同じ疑問を持っている方は参考にしてください。
タコグラフと一緒に運転日報も保存する必要がある?
運転日報は、法律や規則において保存期間は定められておらず、保存義務はありません。
ただ前述の通り、タコグラフによる運行記録は保存しなければいけません。つまり運転日報の中からタコグラフによる記録のみは保存する必要があるということです。
運転日報と間違えてタコグラフを紛失しないように気を付けておきましょう。
タコグラフとドライブレコーダーの違いは何?
タコグラフは走行距離や休憩時間など、運行情報を記録するものです。問題なく運行しているか、またドライバーが無理なく乗務しているかなどを確認する意味合いが強いです。
一方でドライブレコーダー(通称ドラレコ)は、映像と音声で走行中の記録を行います。乗務中に事故やトラブル(あおり運転など)があった場合に備え、記録しておくのが目的です。
アナタコとデジタコはどちらが多い?
公益財団法人日本自動車輸送技術協会の「令和3年11月 デジタル式運行記録計等の使用実態調査報告」によれば、タコグラフの布教率は次のようになっています。
- トラック事業所・・・デジタコ普及率87%(※499事業所のうち)
- バス事業所・・・デジタコ普及率は90.8%(※501事業所のうち)
一部事業所による算出でも、圧倒的にデジタコの普及率が高まっていることがわかります。記録方式や参照のしやすさ、機能面からも業界全体でタコグラフはデジタコ派へと移り変わっていると言えるでしょう。
※参考:公益財団法人日本自動車輸送技術協会「デジタル式運行記録計等の使用実態調査報告」
タコグラフの保存期間は5年見ておこう
運送業でタコグラフの保存期間は、貨物自動車運送事業輸送安全規則および道路交通法施行規則においては最低1年の保存が義務となっています。
しかし労働基準法上、タコグラフの記録は「労働者の情報」として扱われることがあるため、5年は記録を保存するのが安全です。少なくとも5年間保存しておけば、事故や後々の訴えなどのトラブルにも対応することができるでしょう。
タコグラフによる運行記録をきちんと記録できないと、最悪の場合はドライバーも含め処罰の対象になることがあります。会社全体に損害を与えてしまうため、気を引き締めて担当していきましょう。