運送会社の「点呼」は、輸送とドライバーの安全を守る目的で行われる重要な業務で、法律で実施が義務付けられています。
しかし、「点呼の実施及び記録保存」は、毎回、巡回指導で指摘される項目の上位に挙がるため、運送業の経営者や運行管理者は、点呼の目的や正しいやり方について理解しておくことが大切です。
この記事では、点呼業務の目的と正しいやり方から、点呼を怠った場合の処分内容、点呼業務の負担を減らしてくれる「IT点呼」について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
運送会社の点呼業務とは
運送会社の点呼業務は、法律で実施が義務付けられており、実施状況は監査で厳しくチェックされます。
ここでは、点呼の目的と正しいやり方、ルールについて詳しく解説します。
点呼の目的
運送会社の点呼業務の目的は、「輸送とドライバーの安全を守ること」です。
点呼の際には、ドライバーの健康状態や酒気帯びの有無と、トラックの車体に異常がないかなどを、運行管理者がドライバーに確認して記録します。
点呼があることで、ドライバーは日常生活でも健康管理の意識が高まり、交通事故防止にもつながります。
※引用:全日本トラック協会|「点呼」は安全運行の要
正しい点呼のやり方・ルール
点呼業務は法律によって実施が義務付けられていますが、ただ点呼を行えば良いという訳ではありません。
点呼業務を行うタイミングや、実施の流れ、確認する項目と記録の仕方などのルールが、細かく定められています。
また、点呼を行う人も決められており、運行管理者(国家資格を取得した運送業務の管理者)または、補助者が行う必要があります。
点呼は、運行管理者とドライバーが対面にて行うことが基本ですが、運行上難しい場合は、リモートで点呼が行えて自動的に記録が残せる「IT点呼」にて点呼を実施することが可能です。
点呼の種類別の内容と、IT点呼については後ほど詳しく解説します。
点呼の確認事項(記録事項)
点呼は、「乗務前点呼」「乗務後点呼」「乗務途中点呼(以下、中間点呼)」と実施するタイミングや条件によって、実施内容が異なります。
それぞれの確認事項と記録事項を把握した上で、記録に漏れがないように注意しましょう。
乗務前点呼
「乗務前点呼」は、ドライバーが業務を開始する前に行います。
業務前点呼で運行管理者がドライバーに確認するポイントは、以下の通りです。
- ドライバーの健康状態(体調不良の有無、疲労の度合い、睡眠不足など)
- ドライバーの酒気帯びの有無
- 車体の日常点検の実施結果(整備管理者の運行許可確認を含む)
- 業務を行うために必要となる備品等の確認(運転免許証、非常灯、業務で必要な帳票類など)
- 運行の安全を確保するために必要な指示(運行経路、運行経路の道路状況や気象状況、運行時間、休憩時間や場所など)
業務前点呼の記録事項を、以下の表にまとめました。
記録事項(記録する項目) | ・点呼執行者名
・運転者名 ・乗務する車両の登録番号 ・点呼日時 ・点呼方法(アルコール検知器使用の有無、対面でない場合は具体的方法) ・酒気帯びの有無 ・運転者の疾病、疲労等の状況 ・日常点検の状況 ・指示事項 ・その他必要な事項 |
点呼記録は、監査の際に提出を求められるため、漏れがないようにしっかり記載しておきましょう。
また、全日本トラック協会の公式サイトでは、点呼記録簿の記載の仕方や見本が掲載されていますので、参考にしてください。
※参考:全日本トラック協会| 全日本トラック協会標準帳票「点呼記録簿」の改訂について
※参考:e-Gov法令検索|貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条
※参考:国土交通省 自動車総合安全情報 「運転者に対する点呼の概要」
乗務後点呼
「乗務後点呼」は、ドライバーが業務を終了した後に行います。
業務後点呼で運行管理者がドライバーに確認するポイントは、以下の通りです。
- ドライバーの運行状況の確認(車体や積載物の異常の有無、乗務記録、チャート紙、運行記録計などの記録)
- 道路の工事箇所など、道路状況に関する最新情報の共有
- ドライバーの酒気帯びの有無
- 次回の運行予定の確認と指示
業務後点呼の記録事項を、以下の表にまとめました。
記録事項(記録する項目) | ・点呼執行者名
・運転者名 ・乗務する車両の登録番号 ・点呼日時 ・点呼方法(アルコール検知器使用の有無、対面でない場合は具体的方法) ・酒気帯びの有無 ・自動車、道路及び運行の状況 ・交替運転者に対する通告 ・その他必要な事項 |
中間点呼(業務前、業務後のどちらも対面点呼を行えない場合)
「業務前点呼」と「業務後点呼」のどちらも対面での点呼が行えない場合は、業務途中に電話などで、ドライバーと直接対話して点呼を行う必要があります。
中間点呼で運行管理者がドライバーに確認するポイントは、以下の通りです。
- ドライバーの酒気帯びの有無
- ドライバーの健康状態(体調不良の有無、疲労の度合い、睡眠不足など)
- 運行の安全を確保するために必要な指示(運行経路、運行経路の道路状況や気象状況、運行時間、休憩時間や場所など)
中間点呼の記録事項を、以下の表にまとめました。
記録事項(記録する項目) | ・点呼執行者名
・運転者名 ・乗務する車両の登録番号 ・点呼日時 ・点呼方法(アルコール検知器使用の有無、対面でない場合は具体的方法) ・酒気帯びの有無 ・運転者の疾病、疲労等の状況 ・指示事項 ・その他必要な事項 |
運行記録を残すために使われるタコグラフ(運行記録計)の保存期間については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「タコグラフの保存期間はいつまで?|車両業務での役割と義務も解説」
点呼を怠った場合の処分・罰則
点呼業務を怠ったり、点呼記録に不備がある場合は、行政処分の対象となります。
違反の内容によって点数が設定されており、累積された点数に応じて行政処分が下されます。
主な行政処分は、文書警告、自動車の使用停止、事業停止、許可取消しなどです。
トラックの点呼未実施・違反した場合の処分内容
違反の基準は、点呼の必要回数100回中、未実施の回数が何回あったかによって行政処分が決定されます。
例えば、100回中、点呼未実施が19回以下なら初回に限り「警告」処分で済みますが、2回目の場合は「10日間の車両停止」処分となってしまいます。
以下の表に、違反と処分の内容をまとめました。
違反行為・回数 | 初回違反 | 再違反 | |
未実施 | 未実施19件以下 | 警告 | 10日車※ |
未実施20件以上49件以下 | 10日車 | 20日車 | |
未実施50件以上 | 20日車 | 40日車 | |
実施不適切(実施事項に不備がある場合) | 一部実施不適切 | 警告 | 10日車 |
全て実施不適切 | 10日車 | 20日車 |
未実施と実施不適切のどちらにも当てはまる場合は、処分日車数が多い方で算出されます。
※:違反点数は、処分日車数10日=1点と計算される。
※引用:国土交通省 自動車総合安全情報 「行政処分の基準」
※引用:国土交通省 北陸信越運輸局 「自動車運送事業の最多違反は点呼!」
点呼の記録違反の処分内容
点呼の記録違反や不備があった場合も処分の対象となります。違反と処分の内容は、以下の表の通りです。
違反行為・回数 | 初回違反 | 再違反 | |
記録 | 一部記録なし | 警告 | 10日車 |
全て記録なし | 30日車 | 60日車 | |
記載事項等の不備 | 警告 | 10日車 | |
記録の改ざん・不実事項 | 60日車 | 120日車 | |
記録の保存 | 一部保存なし | 警告 | 10日車 |
全て保存なし | 30日車 | 60日車 |
点呼の未実施は「記録なし」違反にも該当します。
点呼未実施、記録違反のどちらにも共通しているのは、再違反の場合の処分はいずれも重くなるという点です。
初回の違反は、警告で済む場合が多いですが、同じ違反を再度してしまうと車両停止になるため、運送会社の経営にも影響します。
アルコール検知器の設置違反
点呼時に「ドライバーの酒気帯びの有無」を確認するためにアルコール検知器が使われますが、アルコール検知器の備えがなかったり、不備があった場合も処分の対象となります。
アルコール検知器の違反と処分内容は、以下の通りです。
違反行為 | 初回違反 | 再違反 |
アルコール検知器の備えなし | 60日車 | 120日車 |
アルコール検知器の常時有効保持義務違反 | 20日車 | 40日車 |
違反点数について
違反点数は、処分日車数10日=1点と計算されます。
つまり、点呼未実施19件以下で再違反の場合の処分は、「10日車」となり、10日間の車両停止処分と違反点数1点が加算されるのです。
違反点数は、会社全体ではなく営業所に対してつき、運輸局単位で累計されます。
また、違反点数は一定期間が経過するとリセットされますが、その前に違反があると違反点数が加算され、点数によって事業許可の取消しや事業の停止、違反事業者名の公表などの行政処分が下されます。
リセットされるまでの累計期間は基本的には3年間ですが、以下の要件を満たすと2年間に短縮されます。
- 行政処分を受けた日より前の2年間で、行政処分を受けていない
- 行政処分を受けた時点で、Gマークを取得している
普及が広まる「IT点呼(自動点呼)」とは
点呼は運行管理者とドライバーが対面にて行うことが推奨されていますが、業務上、対面での点呼が難しい場合は、ITシステムと専用の測定機器を利用したリモートでの点呼が可能です。
IT点呼は、点呼業務を効率化し運行管理者とドライバーの負担を軽減しますが、Gマーク認定を受けた営業所と、一定の要件を満たした営業所のみが利用できます。
ここでは、IT点呼の導入効果と、IT点呼と遠隔点呼の違いについて解説します。
IT点呼の導入効果
対面での点呼は、営業所ごとに運行管理者が出勤して点呼を行う必要がありますが、IT点呼では、運行管理者が遠隔にて複数の営業所に点呼を行うことが可能です。
国土交通省が実施したIT点呼に関するアンケートでは、「深夜・早朝でも確実に点呼を実施できた」という回答が最も多く、次いで「点呼実施者の労働時間を短縮」という回答でした。
IT点呼は、運行管理者の負担軽減の他にも、点呼記録を手作業ではなくシステム管理で効率化できる点も大きなメリットです。
※引用:国土交通省|中小トラック運送業のためのITツール活用ガイドブック
「IT点呼」と「遠隔点呼」の違い
IT点呼を実施するには、営業所がGマークを取得する必要がありますが、遠隔点呼の場合はGマークがない営業所でも実施できます。
遠隔点呼は、2023年4月1日から導入された新しい点呼の方法で、点呼の方法や内容などはIT点呼とほとんど変わりませんが、実施の要件や範囲、時間の制約など異なる点も多いため、違いを理解しておくことが大切です。
以下の表で、IT点呼と遠隔点呼の違いをまとめました。
IT点呼 | 遠隔点呼 | |
営業所の要件 | Gマーク認定営業所及び一定の要件を満たす優良な営業所 | 全ての営業所で実施可能 |
範囲 | 【営業所内】
営業所と当該営業所の車庫間または当該営業所の車庫と当該営業所の他の車庫間 |
IT点呼と同じ |
【営業所間】
営業所と他の営業所間・営業所と他の営業所の車庫間・営業所の車庫と他の営業所の車庫間 |
【営業所間】
IT点呼と同じ |
|
時間の制約 | 1営業日のうち連続する16時間以内(ただし営業所内は制約なし) | 制約なし |
必要な機器・システム | 国土交通大臣が認定した機器 | 要件を満たすカメラ、モニター、生体認証機能、映像・音声共有、点呼結果・故障の記録・保存機能を有する機器・システム、アルコール検知器 |
環境条件 | なし | 監視カメラの設置、環境照度の確保、通信環境・通話環境の確保 |
運用時の順守事項 | なし | 運行管理者の確認事項、機器故障時の点呼体制整備、個人情報の取扱い等 |
遠隔点呼は、全ての営業所で実施できますが、導入するためには、システムや環境の要件を満たし、「遠隔点呼の実施に係る届出書」を営業所を管轄する運輸支局保安部門へ届け出る必要があります。
IT点呼に関する具体的な内容については、国土交通省の「中小トラック運送業のためのITツール活用ガイドブック」を確認してください。
※参考:国土交通省|中小トラック運送業のためのITツール活用ガイドブック
点呼業務の目的と正しいやり方を理解して、自社にあったIT点呼システムを導入しよう
運送会社の点呼は、ドライバーの安全を守るために行う重要な業務で、法律で実施が義務付けられています。
運行管理者が正しいやり方で点呼を行うことで、飲酒運転などの違反防止以外にも、ドライバーの健康維持や事故防止につながります。
点呼業務を怠ったり、点呼記録に不備があった場合は、行政処分の対象となるため適切な方法で行うことが大切です。
点呼業務は、運行管理者の負担が大きいため、ITシステムを上手く活用しIT点呼の導入を検討して効率化を目指しましょう。