運送業界におけるドライバーの労働管理は、人手不足や労働時間の規制などにより、深刻な問題に直面しています。ここで重要なことは、労務管理の基準を理解し、効果的な労務管理を行うことです。
そこで、この記事では
- ドライバーの労務管理の基準
- 改善基準告示の変更点
- 労務管理を難しくしている課題
- 労務管理をする上で必要になってくるポイント
について解説します。
コストを抑えつつ効率的な労務管理を実現する方法を解説していくので、運送会社の経営者や人事担当者の方はぜひ参考にしてみてください。
運送業界ではドライバーの労務管理が重要視されつつある
ECサービスの普及により、運送業界では荷物の量が増え、仕事量が大幅に増加しています。人手不足の中、多くの荷物を届ける必要があるため、運送業界は労働時間が他の業界よりも長くなっています。
また、長時間労働を見直す動きもあります。2018年に成立した働き方改革関連一括法案では、労働時間の見直しや過労防止などが新たに項目として加わりました。トラック運送業者には特に労働時間の管理が厳しく求められ、違反には厳しい行政処分が課されます。
トラックドライバーの労働時間に関する基準は一般の労働基準法以上に厳しい規定があります。そのため、運送事業者にとって適切な労働管理を行うことが難しい状況です。
ドライバーの労務管理で基準となる改善基準告示とは
改善基準告示は、厚生労働大臣が定める「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」のことです。ドライバーの労働条件を向上させるために、拘束時間や休息時間などの基準を定めています。
- 拘束時間とは:始業から終業までの時間であり、労働時間と休息時間を含みます。つまり、ドライバーが企業に拘束される時間全体を指します。
- 休息時間とは:勤務と次の勤務の間に取られる時間で、自由な時間です。ここでは疲労回復や睡眠など、労働者の自己管理が重要となります。
厚生労働省の調査によれば、運輸業・郵便業が脳・心臓疾患による労災支給決定件数が最多であり、過労が深刻な課題となっています。
2018年からの働き方改革に伴い、2024年4月1日からは拘束時間の上限や休息期間などが改正されます。
改善基準告示の対象は、四輪以上の自動車を運転するドライバーです。違反には罰則はありませんが、労働基準監督署からの是正勧告や指導、時には車両停止処分といった行政処分があります。経営に大きな影響を与えるため、労務管理者は改善基準告示を理解し、労務管理を徹底する必要があります。
【職種別】改善基準告示の運送業3職種の変更点
次に、運送業ドライバーの改善基準告示の変更点について解説します。
変更の対象になる職種はトラック、バス、タクシー/ハイヤードライバーの3職種になります。
今回は上記の職種ごとに、変更点を理解する上で重要な拘束時間と休息時間の2つのポイントを整理しました。
トラックドライバー
変更前/後 | 1年間の拘束時間 | 1ヶ月の拘束時間 | 1日の休息時間 |
改正前 | 3,516時間 | 原則:293時間
最大:320時間 |
継続8時間 |
改正後 | 原則:3,300時間
最大:3,400時間 |
原則:284時間
最大:310時間 |
継続11時間を基本とし、継続9時間 |
トラックドライバーの1年間の拘束時間については、改正前が3,516時間に対して、改正後は原則3,300時間、最大3,400時間と短縮しています。
また1ヶ月の拘束時間についても同様に原則293時間、最大320時間だったものが、原則284時間
最大310時間と短くなっています。
1日の休息時間に関しては、改正前に継続8時間だったものが、改正後は継続11時間を基本とし、継続9時間となり、十分な休息時間を確保できるように改正されています。
バスドライバー
変更前/後 | 1年間の拘束時間 | 1ヶ月の拘束時間 | 1日の休息時間 |
改正前 | 原則:3,380時間
最大:3,484時間 |
原則:281時間
最大:309時間 |
継続8時間 |
改正後 | 原則:3,300時間
最大:3,400時間 |
原則:281時間
最大:294時間 |
継続11時間を基本とし、継続9時間 |
バスドライバーの1年間の拘束時間については、改正前が原則3,380時間、最大3,484時間に対して、改正後は原則3,300時間、最大3,400時間と短縮しています。
また1ヶ月の拘束時間についても同様に原則281時間、最大309時間だったものが、原則281時間
最大294時間と短くなっています。
1日の休息時間に関しては、トラックドライバー同様に、改正前に継続8時間だったものが、改正後は継続11時間を基本とし、継続9時間となり、十分な休息時間を確保できるように改正されています。
タクシー/ハイヤードライバー
変更前/後 | 日勤の1ヶ月の拘束時間 | 1日の休息時間 |
改正前 | 299時間 | 継続8時間 |
改正後 | 288時間 | 継続11時間を基本とし、継続9時間 |
タクシー/ハイヤードライバーの1ヶ月の拘束時間については299時間だったものが、288時間と若干短くなっています。
1日の休息時間に関しては、トラック・バスドライバー同様に、改正前に継続8時間だったものが、改正後は継続11時間を基本とし、継続9時間となり、十分な休息時間を確保できるように改正されています。
労務管理を難しくさせている3つの課題
運送業界では、労務管理が問題視されている現状があります。
ここからは、ドライバーの労務管理を難しくさせている要因を、3つの課題に分けて解説します。
課題1: ドライバーの労働時間が自己申告のため正しいか分からない
オフィスに帰社せず、そのまま帰宅する場合は、管理者が勤務情報を把握することが困難です。
また、日帰り勤務についても、長距離輸送ではタイムカードでの出退勤のチェックができないため、基本的にはドライバーが自己申告で勤怠を管理することが多いです。そのため、正しい勤務時間や業務の把握が難しくなります。
課題2: 手書きの習慣が根付いてしまっている
運転日報やタイムカードを手書きで記入しているケースがあります。
これにより、情報の改竄、記入・提出漏れなどが生じる可能性が出てきます。不正や提出漏れが起こることにより、二次対応に追われてしまい、本来やるべき業務ができなくなってしまうことが懸念されます。
課題3: 勤怠の種類が複雑になっている
正規雇用と非正規雇用のドライバーでは、勤務時間や勤務パターン、給与形態が異なります。
特に手作業で管理や集計をしている場合、ミスが生じる可能性も上がります。更に従業員数が増えるにつれて、管理作業がより複雑になり、手間がかかることがあります。
労務管理の3つのポイント
ポイント1: 正確に勤務時間が把握できるように取り組む
従業員の労働時間が「改善基準」や「過労死ライン」に適しているかを確認するには、正確な勤務実態を把握する必要があります。
しかし、運送業では長距離輸送が一般的であり、外出中のドライバーの労働時間や休憩時間を正確に把握することは難しいです。
そこで、ドライバーの勤務実態をより正確に把握するために、スマホやタブレット、フューチャーフォンなどからGPSで打刻できるクラウドサービスが役立ちます。
このサービスでは、「誰が」「いつ」「どこで」打刻したかがリアルタイムでわかるため、不正な打刻を防ぎながら、ドライバーの勤務実態を正確に把握することが可能です。
ポイント2: 従業員の業務を自動化して長時間労働を見直す
勤務実態を正確に把握できない原因は、勤怠の締め作業にあります。
運送業では、ドライバーだけでなく配車係や倉庫作業員、バックオフィスの人員など、さまざまな従業員が異なるタイムテーブルで働いています。そのため、締め作業には時間がかかる傾向があります。
締め作業が遅れると、従業員の時間外労働の超過を見落とす可能性があります。そして、「気づいたら労働基準法や労働安全衛生法に違反していた」という状況に陥ることがあります。
締め作業を効率化するには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。従業員の打刻データを元に、労働時間や休憩時間を自動で集計してくれるため、勤務実態をリアルタイムに把握することができます。
また、勤怠管理システムの多くはクラウドサービスのため、法改正があった際に、ソフトウェア側がアップデートで法改正に迅速に対応してくれる点もメリットと言えます。
ポイント3: 2024年問題に対応する改正労働基準法を見据えて労務管理を行う
2019年4月に労働基準法が改正され、2024年4月から新たな労働時間の上限規制が始まります。
それを踏まえて給与や福利厚生などの労務対応が必要とされています。
2024年問題により、残業時間が規制されると、残業代が減ることに不安を感じるドライバーが増える可能性があります。この場合、残業代の減少に備えて、他の方法で賃金を補うことを検討する必要があります。
例えば、手当や福利厚生の充実、新たな手当の創設など、賃金以外で従業員に還元する方法を検討することが重要です。従業員の不満を避けるために、給与や福利厚生などの対策を事前に準備しておくことが大切です。
労務管理の正しい基準を理解し、勤務時間を適切に調整しよう!
ドライバーの労務管理を推進するためには、まず正しい基準を理解することが重要です。
適切な勤務時間の管理は、従業員の健康や安全を守るだけでなく、企業の法令遵守にもつながります。労働基準法や改善基準告示に基づいて、適正な勤務時間や休息時間を確保してください。
また、勤怠管理システムの導入や運転日報の電子化などの効果的な手段を検討し、勤務時間の正確な記録を行いましょう。従業員と企業の双方が安全かつ健康的な労働環境を確保するために、労務管理の重要性を認識し、適切な対策を行うことが大切です。
本記事を今後の労務管理をする上での参考にしてみてください。