コラム

運送ドライバーに必要な適性診断とは?|診断の種類や流れを解説

目次

適性診断は運転に関わる能力を診断するもので、バス・タクシー・トラックなどの運送ドライバーは受診が必須とされています。しかし馴染みがない人にとっては、「何のために受けるものなのか」「評価が低かったらどうなるのか」と不安に思う人も少なくないでしょう。

そこで本記事では新たに運送ドライバーとなる人に向け、運送業界における適性診断を解説します。診断の意義や受けられる診断の種類もわかりやすく解説するので、疑問をお持ちの方はぜひご覧ください。

また、後半では実際の適性診断の流れや注意点も紹介しています。事前にどのようなものか知っておきたい方も参考にしてください。

ドライバーの事故を防止するための適性診断とは

運送業界で言われる適性診断は、ドライバーの認識や能力を診断するものです。診断では運転能力や認識を見て、安全に走行するための適切な力を有しているかを診断します。

診断は運送に関わる全てのドライバーが就職時や一定年齢に達した際などに受診する必要があります。

ただし、診断結果はドライバーの労働の可否を判断するものではありません。あくまでも安全に運転を行うため、能力を客観的に診断し、危機管理の認識を改めてもらうことが目的です。結果が悪いからといって一方的に会社側がドライバーを辞めさせるようなことはありません。

なお、診断は「NASVA独立行政法人自動車事故対策機構」という行政法人が各地の関連施設で行っています。

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NASVA独立行政法人自動車事故対策機構について

NASVA独立行政法人自動車事故対策機構(National Agency for Automotive Safety& Victims’Aid)とは、事故に繋がるさまざまな危険を啓発し、多くの人が安全な運転を行うことを目的とした独立行政法人です。

「防ぐ・支える・守る」を柱に、事故防止のための指導や被害者援護の活動を行っています。このうち、実施している活動の一つが、ドライバー向けの適性診断です。

NASVAが行う適性診断ではドライバーの長所・短所を可視化することで、診断結果から日々の運転業務を改善し、事故を防止することを目的としています。

なお、診断は運送会社向け(緑ナンバー事業者)や社用車を有する会社(白ナンバー事業者)に加え、一般ドライバー向けにも展開されています。

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構

運送ドライバーが受ける適性診断の種類

適性診断は、用途別・対象別に次の5種類に分けられます。

  • 一般診断(またはカウンセリングつき一般診断)
  • 初任診断
  • 特別診断
  • 適齢診断
  • 特定診断Ⅰ・特定診断Ⅱ

ここからは各診断を詳しく解説します。

初任診断|就職した人が対象

初任診断は、運送会社へ就職した全てのドライバーを対象とした診断です。運転手としての経験に関係なく、運送会社へ就職したドライバーは必ず最初に受けなければいけません。

なお、初任診断は省令で会社側に受診させる義務があり、所属するドライバーは従う必要があります。

初任診断の概要
受診対象 新たにドライバーとして就職した人
受診時期 貨物:初めてトラックの乗務をする前

旅客:ドライバーとして選任する前

内容 ●        認知力・処理能力・視覚能力の診断

●        運転態度の診断

●        カウンセラーによる指導・アドバイス

診断料金 4,800円
受診の所要時間 約1時間40分

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の種類

適齢診断|65歳以上の運転者が対象

適齢診断は、65歳以上の運転者が受ける適性診断です。加齢による身体変化を診断し、現在の能力を再認識することが目的です。

基本的には初任診断と内容は同じですが、カウンセリングでは特に身体能力の変化を重点に指導を受けます。診断を受けることでドライバーは加齢の影響から起きうる危険を客観的に知ることが可能です。

なお、適齢診断は初任診断と同じく省令上の義務があり、所属するドライバーは従わなければいけません。

適齢診断の概要
受診対象 運送会社で65歳以上になるドライバー
受診時期 貨物:65歳に達して1年以内(以降3年毎に1回)

旅客:【個人タクシー】事業許可証の更新申請前

(※事業許可証の更新日の時点で65歳以上の場合)

:【個人タクシー以外】65歳に達して1年以内

(以降75歳まで3年毎に1回~75歳以降は1年に1回)

内容 ●        認知力・処理能力・視覚能力の診断

●        運転態度の診断

●        カウンセラーによる指導・アドバイス

(身体能力の変化に応じて)

診断料金 4,800円
受診の所要時間 約1時間40分

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の種類

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特定診断|事故を起こした人が対象

特定診断は、「特定診断Ⅰ」および「特定診断Ⅱ」の2つがあります。それぞれに事故を起こしてしまったドライバーが対象で、事故内容により受診するものが変化します。

特定診断Ⅰは、1年以内に新たに死亡または重傷事故を起こしてしまった人が対象です。または過去3年間に事故を起こしていて、新たに軽傷事故を起こしてしまった人も受診をする必要があります。

一方で特定診断Ⅱは、過去1年以内に事故を起こしている上で、新たに死亡または重傷事故を起こしてしまった人が受けなければいけません。なお、診断はおもにカウンセラーによる事故要因の掘り下げと再発防止の指導を中心に行われます。

特定診断の概要
受診対象 特定診断Ⅰ:①死亡または重傷事故を起こしてしまった人(※1年以内に他に事故は起こしていない人)

:②軽傷事故を起こしてしまった人で過去3年間にも事故を起こしたことがある人

 

特定診断Ⅱ:死亡または重傷事故を起こしてしまった人(※1年以内に他にも事故を起こしている人)

受診時期 事故を起こした後に再度乗務する前
内容 特定診断Ⅰ:事故を起こした状況と運転経歴などを参考に再発防止のための指導・アドバイスを行う

 

特定診断Ⅱ:運転傾向から事故に繋がる運転特性や要因を考察し、再発防止のための指導・アドバイスを行う

 

※それぞれ専門カウンセラーによるカウンセリング

診断料金 9,300円/29,900円
受診の所要時間 約2時間/約5時間

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の種類

一般診断|誰でも受けられる

一般診断は、普通運転免許以上を持っている全てのドライバーが受けることができる診断です。運送会社の所属に問わず、白ナンバー事業者や一般の人も任意で受診ができます。

診断内容は初任診断とほぼ同じで、身体的な能力や運転に対する認識を診断します。ただし、一般診断では能力の診断が中心でカウンセラーによる指導は行いません。

カウンセリングも受けたい場合は「カウンセリング付き一般診断」があり、そちらでは診断に加えて安全運転のためのアドバイスを受けることができます。

なお、受診時期に決まりはありませんが、自身の能力と危険運転の可能性を把握するために定期的な受診が推奨されています。自身の運転スキルに不安を感じた任意のタイミング、もしくは事故対策のための定期的な診断に使用することがおすすめです。

一般診断の概要
受診対象 普通免許以上を持つ全ての人
受診時期 3年以内に1度の受診を推奨(※任意)
内容 ●        認知力・処理能力・視覚能力の診断

●        運転態度の診断

●        カウンセラーによる指導・アドバイス(※カウンセリング付き一般診断のみ)

診断料金 2,400円
受診の所要時間 約1時間20分

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の種類

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適性診断の内容と流れ

適性診断は次の5つの項目においてドライバーを診断します。なお、診断は主にパソコンや専用のシミュレーターなどを使います。

  1. 動作は正確か
  2. 適切なタイミングで反応できるか
  3. 注意が配れているか
  4. 視覚的な機能は正常か
  5. 安全意識があるか・危険への判断能力があるか

以下で各項目の内容を簡単に見ていきましょう。

①動作は正確か

起きる事象に対し、正確に動作ができるかを診断します。動作の早さというより、選ぶ選択肢の正確さや咄嗟に指示通りの行動ができるかを判断するためのものです。

診断では、あらかじめ手足に入力できる色が振り分けられ、専用のシミュレーター画面に表示される色を入力していきます。

また、診断の半分は応用編としてブザー音も使い、音が鳴る時は入力しないなどといった、より難解な入力を求められます。加えて最終的に表示された色の数も回答が必要です。

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の流れ

②適切なタイミングで反応できるか

次に適切なタイミングで、正しい反応ができるかを診断します。一見すると「動作は正確か」との違いがわかりにくいですが、こちらはタイミングに特化した診断です。

診断では、運転している場面を再現したシミュレーターを使い、他の車が右から左へ通過したタイミングで入力を行います。ただし左側はあらかじめ隠されており、右から来る車のスピードを見て、左側を通過したことを予測したタイミングで入力しなければいけません。

シミュレーションは何度か繰り返し、回数ごとにスピードは早まります。周りを見ながら適切なタイミングで車を認識できるか、変化する速度に反応できているかを判別する意図があります。

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の流れ

③注意が配れているか

事故に繋がらないために適切に周囲に注意を配れているかも調べていきます。

シミュレーターで指示に従いながら運転をし、注意を配りながら障害物を通過する操作を行います。このシミュレーションでは指示や注意点を認識しつつ、正確なハンドル操作ができているかを判別することが可能です。

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の流れ

④視覚的な機能は正常か

動体視力・眼球運動・周辺視野の部門に分かれて、視覚的な機能が正常であるかも診断します。運転に必要な能力として、視覚の細かい部分をチェックするのが目的です。

例えば動体視力の部門では、画面に表示される数字を表示通りに入力します。数字の表示速度は上がっていくため、反応できているかで動体視力の精度を診断することが可能です。

眼球運動の正常度では、画面内の9つの場所の中でランダムに表示される図形を見る診断で行います。表示後は画面が切り替わり、記憶を頼りに図形が表示された「場所」を回答。認識数が合っているほど、眼球運動が良いと言えます。

また、周辺視野を調べる際は数秒間で画面中央へ表示される数字、ランダムで周辺に現れる〇の図形の「場所」を記憶し答えます。集中して捉えるべき中心の事柄(数字)と、認識するべき周りの情報(図形)を、両立し記憶できているかで周辺視野の能力を知ることが可能です。

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の流れ

⑤安全意識があるか・危険への判断能力があるか

「注意が配れているか」では実際に注意を配りつつ運転する能力を見ますが、内面的な危険認識を調べるために安全態度・危険感受性を重視した診断も行います。ドライバーの考え方や捉え方によっても事故に繋がる恐れがあるため、診断項目が別に設けられています。

運転時の精神的な向き合い方や安全意識のレベル、危険を捉えられるかをチェックすることで、ドライバーの内面的な危険要素を診断することが可能です。

なお、診断は2種類の選択式で、専用のシミュレーションもしくは問診方式になります。

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構「運転手適性診断の流れ

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適性診断を受ける際の注意点

運送ドライバーが適性診断を受けるにあたり、2つの注意点があります。

  1. 診断で良い結果を出すことに固執しない
  2. 診断結果が悪くても事故を起こすとは限らない

まず前提として、適性診断で必要以上に良い結果を出そうとするのは避けてください。能力を診断するというと、「良い結果を出さなければ」と考える人は少なくありません。

しかし適性診断は隠された危険を探り、事故を未然に防ぐことが目的です。ドライバーがいつもと同じ力加減で診断を受けなければ正確な普段の実力がわかりません。

安全運転をするためのコツを探るためにもテストのように構えるのではなく、いつも運転するような力加減で診断を受けるようにしましょう。

また、もし診断結果が悪くても落ち込まないでください。適性診断は「結果が悪い」=「必ず事故を起こす」わけではなく、あくまでも危険の可能性があるだけです。

実力を見つめ直し、危険な可能性がある部分を意識的に注意するようにしましょう。もし適性診断がカウンセリング付きなら、アドバイスなども参考にしてみてください。

適性診断でよくある疑問【Q&A】

最後にドライバー向けの適性診断でよくある疑問に答えていきます。

初めて適性診断を受けるドライバーの人はわからないことも多いと思うので、ぜひ参考にしてください。

適性診断を受けないとどうなる?

初任診断・適齢診断・特定診断は受診しないと、罰則が科せられる場合があります。

なお、明記されている省令は「貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条の2」および、「旅客自動車運送事業運輸規則第38条の2」です。

ただし2つの省令で義務があると記されているのは運送会社側なため、ドライバー側に罰則が科せられることはありません。逆に言えば義務がある限り、会社側は適齢診断を受けないドライバーを業務に就かせることはできないと言えます。

万が一適齢診断を受けず、会社側も感知しない場合はどうなるのでしょうか。違反があった場合については、続く条項で次のように明記されています。

貨物 第十二条の八 国土交通大臣は、適性診断の実施者が第十二条の四の規定に違反していると認めるときは、その適性診断の実施者に対し、同条の規定による適性診断に係る業務を行うべきこと又は適性診断の実施の方法その他の業務の方法の改善に関し必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

 

※引用:e-Gov法例検索「貨物自動車運送事業輸送安全規則第10条の2

旅客 第四十一条の八 国土交通大臣は、適性診断の実施者が第四十一条の四の規定に違反していると認めるときは、その適性診断の実施者に対し、同条の規定による適性診断に係る業務を行うべきこと又は適性診断の実施の方法その他の業務の方法の改善に関し必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

 

※引用:e-Gov法例検索「旅客自動車運送事業運輸規則第38条の2

各省令を要約すると、違反があった場合は改善命令を出し、通常の業務を止めて必要な措置を取るように命じることができるということです。診断を受けてなかったドライバーも対応が求められることが考えられるため、勤務に大きな影響が出てしまうでしょう。

適性診断はどこで受診する?

適性診断は、各支部にある診断会場で受診します。

詳しい場所はNASVA独立行政法人自動車事故対策機構のサイトから、最寄りの支部を確認してください。なお、診断を受けるためにはNASVAのサイト・電話・FAXから予約が必要です。

ただ義務範囲の適性診断は、会社の指示に沿って進めることが考えられるので手順を担当者へ確認しましょう。

※参考:NASVA独立行政法人自動車事故対策機構

適性診断の費用はドライバーが払うのか?

省令上、適性診断は雇う側の義務と言えるため、ドライバーを雇用する会社が費用を負担することが一般的です。

また、基本的に業務に必要なものは会社が用意しなければいけないという観点もあります。運送業で適性診断は義務が課せられている「業務に必要なもの」なため、会社負担が基本と言えるでしょう。

※参考:e-Gov法例検索「貨物自動車運送事業輸送安全規則」「旅客自動車運送事業運輸規則

適性診断を受けて安全運転を目指そう

適性診断は運転に使われる身体能力や認識を調べ、運転傾向を知ることができます。事故に繋がる要素や運転時に気を付けたいことを知ることで、乗務中の危険を減らせる可能性が高いです。診断が存在しているのは保安上の都合というだけではなく、ドライバーが身を守るためにも有益と言えるでしょう。

なお、就職時・65歳以上・事故を起こした時は省令上必ず受診が必要なため、必要性を把握しておくと安心です。安全運転を目指すためにも、診断を活かしていきましょう。

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竹村 優

2017年に運送特化求人サイト「ドラピタ」を立ち上げ7年、東海エリアではトップシェアのドライバー求人サイトに成長しました。関東圏、関西圏、九州圏にもっと「ドラピタ」広げていくのはもちろん、運送会社の採用課題を解決する商品をどんどん開発中。今では6つの自社商品を開発し、多くの運送会社様にご利用いただいています。夢は運送業界を「子どもたちの憧れの仕事」にすること。採用から運送業界を変えていけると本気で思っています。
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竹村 優

2017年に運送特化求人サイト「ドラピタ」を立ち上げ7年、東海エリアではトップシェアのドライバー求人サイトに成長しました。関東圏、関西圏、九州圏にもっと「ドラピタ」広げていくのはもちろん、運送会社の採用課題を解決する商品をどんどん開発中。今では6つの自社商品を開発し、多くの運送会社様にご利用いただいています。夢は運送業界を「子どもたちの憧れの仕事」にすること。採用から運送業界を変えていけると本気で思っています。