運送業は慢性的にトラックドライバーの人手不足という課題を抱えており、繁忙期は特にドライバーやトラック不足になることが多いです。
庸車(傭車)とは、自社で請け負った荷物を輸送できない時に、他社に依頼して代わりに配送してもらうことを指す言葉で、人手不足になる繁忙期によく利用されます。
この記事では、庸車の意味やメリットデメリット、庸車を依頼する際の注意点について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
庸車(傭車・ようしゃ)とは
庸車(傭車・ようしゃ)とは、主に繁忙期などでトラックやドライバーが不足したときに、他の運送業者に依頼して代わりに配送してもらうことをいいます。
「傭兵」と「車」を組み合わせた用語で、運送業や物流業界で一般的に使われています。
庸車は業界で使われる用語で正式には「利用運送」という事業形態になるため、依頼する際には利用運送契約書と運送委託契約書の作成と届出が必要になります。
庸車は、自社のトラックやドライバーが不足した時以外にも、自社では取り扱いが難しい荷物を配送する場合など、一時的に依頼するケースもあります。
ただ、運送会社の体制や規模によっては、日常的に庸車を利用して業務を行う会社もあり、運送業において庸車は欠かせない役割を担っているのです。
下請けとの違い
運送会社に依頼する場合は「下請け」、個人事業者のドライバーに配送を依頼する場合は「庸車」と分けている会社もありますが、基本的には同じ意味で違いはありません。
荷主から直接仕事を請け負うことを「一次下請け」といいます。
一次下請けからさらに仕事を請け負うことを「二次下請け」または「孫請け」といい、「庸車の庸車」と呼ぶ場合もあります。
また、大手の運送会社では庸車のことを「協力会社」と呼んでいる会社も多いです。
荷主が庸車を依頼するメリット
庸車は主に繁忙期に自社のトラックやドライバーが不足した時に依頼することが多いですが、その他にもさまざまなメリットがあります。
ここでは、荷主が庸車を依頼するメリットについて解説します。
車両の維持費や人件費などのコストを削減できる
物流業界の需要は、年間を通して需要が一定というわけではなく、繁忙期と閑散期があります。
繁忙期の仕事を自社で全て対応できる体制を仮に整えた場合、閑散期にはトラックとドライバーの余剰が生じてしまいます。
そのため、繁忙期に庸車を依頼することで、トラックの購入費や維持費、人件費などのコスト削減が可能になるのです。
運送業の人手不足の原因や現状については、以下の記事で詳しく解説しています。
「運送業ドライバーの離職率が高い原因は?定着率を向上させるための対策法も解説」
自社では対応できない案件も受けることが可能
自社では対応が難しい特殊な荷物の案件を請け負った場合も、庸車を依頼することで対応できる可能性が高まります。
例えば、冷蔵品や液体物、医薬品、危険物などの特殊輸送は、それに対応できる車両や取り扱える資格を持った専門のスタッフが必要になるため、自社だけで対応するのが難しいケースもあるでしょう。
そういった場合に、特殊輸送の体制が整っている庸車に依頼することで、仕事を断らなくて済みますし、対応力の強化や請け負う案件の幅が広がります。
イレギュラーや緊急事態にも柔軟に対応できる
運送業は繁忙期に限らず、急な案件の依頼がきたり、事故やドライバーの欠勤などでトラックやドライバーが足りなくなるイレギュラーも発生します。
そのような緊急時にも庸車を依頼することで、計画通りに荷物を配送できるというメリットがあります。
庸車は、業務をカバーしてくれる重要な役割も担っているのです。
庸車を依頼される側(受託側・運送会社)のメリット
庸車は依頼する荷主側が助かるだけでなく、依頼される受託側にもさまざまなメリットがあります。受託側の主なメリットは、以下の通りです。
- 安定した売上が見込める
- 取引先(依頼する荷主側)との関係が強化される
- 実績が積める・新規事業の可能性が広がる
自社のリソースがある時に庸車を請け負うことで、売上につながりますし、荷主側との信頼も強化され、協力会社として助け合える関係づくりが目指せます。
また、自社で未経験の仕事を請け負うことはリスクが伴いますが、庸車として仕事を受ける場合のリスクは荷主側にあるため、低リスクで新しい仕事に挑戦できるといったメリットもあります。
荷主が庸車を依頼するデメリット
庸車を依頼することで、人手不足の解消やコスト削減などさまざまなメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。
ここでは、荷主が庸車を依頼するデメリットについて解説します。
自社の信用や評判に影響が出る可能性がある
庸車を依頼した運送会社やドライバーが対応トラブルや事故を起こした場合でも、庸車を依頼した荷主側の責任になるケースが多いです。
荷物を受け取る納品先の会社からしたら、庸車かどうかは分かりませんし、あくまで配送業務を請け負った荷主側に責任が生じます。
運送会社では、自社でドライバー教育を行う義務がありますが、自社の教育を受けていない外部のドライバーに配送を任せることは一定のリスクが伴うため注意が必要です。
ドライバー教育の義務については、以下の記事で詳しく解説しています。
「運送業のドライバー教育の方法|国土交通省が定める指導項目「法定12項目」とは?」
車両の運行状況の把握・管理が難しい
自社のトラックで配送する場合は、車両に設置が義務付けられているデジタルタコグラフや管理システムによって、運行管理者はリアルタイムに位置情報や運行ルート・状況が把握できます。
しかし、庸車の場合は自社の設備ではないため、運行状況の把握や管理が難しく、ドライバーとのコミュニケーションも図りにくいといったデメリットがあります。
仮に庸車先のトラックが事故を起こしてしまったり、天候や渋滞によって想定していた運行ルートが使えないなどのトラブルが発生しても、対応に時間がかかってしまう可能性があるでしょう。
庸車を依頼される側(受託側・運送会社)のデメリット
庸車を依頼する荷主側のデメリットを説明しましたが、庸車を依頼される受託側にもデメリットやリスクは存在します。受託側の主なデメリットは、以下の通りです。
- 依頼金額(運賃)が低くなりやすい
- 事故を起こした時のリスク・責任が生じる可能性
庸車を依頼された運送会社や個人事業主が受け取る運賃は、依頼する側の荷主である元請けとその元請けに業務を依頼した企業間で決められた運賃から、仲介手数料を差し引かれた金額になるため、低運賃になりがちです。
一次下請け、二次下請け(孫請け)と仲介する企業が多くなるとさらに運賃は低くなってしまうでしょう。
また、荷物紛失や対応トラブル、事故といった緊急事態が発生した場合は、庸車を依頼した荷主側が責任を負うことが多いですが、トラブルの原因によっては庸車を請け負った会社や個人事業主に責任を問われる可能性もあります。
庸車を依頼する際の注意点
ここでは、庸車を依頼する際の注意点について解説します。
庸車を依頼するには運輸局の許可を得る必要があり、無許可のまま庸車を使ってしまうと違法になるので気をつけましょう。
庸車を依頼するには「利用運送事業」の登録が必須
庸車は正式には「利用運送」という事業形態になるため、庸車を依頼する際には「利用運送契約書」や「運送委託契約書」の作成と届出をした上で運輸局の許可を得る必要があります。
書類の届出をしてから許可が下りるまで平均で3〜4ヶ月かかるため、庸車の依頼を検討している会社は余裕を持って提出するようにしましょう。
引用:e-GOV法令検索|貨物利用運送事業法
未登録のまま庸車を依頼するのは違法
利用運送事業の許可を得ないまま庸車を依頼することは、違法になります。
その場合は、「事業計画変更認可または登録違反」に該当してしまい、利用運転事業の申請取り消しだけでなく事業停止など重い行政処分の対象となるので注意しましょう。
双方の業務内容を明確にした庸車契約を結ぶ
庸車を依頼する際は、依頼先の会社や個人事業主と事前に庸車契約書を結ぶことでトラブルが起きた場合でも適切な対応が可能になります。
特に荷物の紛失といったトラブルは、庸車を請け負った会社側に原因があったとしても庸車を依頼した荷主側(元請け)の責任となることが多いですが、事前に契約書にて荷物紛失時の過失の割合を取り決めておくことでリスクを分散できるでしょう。
ただし、庸車契約は双方の合意の元に結ばれるものなので、依頼する元請けの都合ばかりを押し付けてしまっては庸車先との関係も悪くなってしまうため、業務内容をしっかりと整理して、お互いが気持ちよく仕事ができるように取り決めることが大切です。
車両管理(動態管理)システムの導入を検討する
車両管理システムは、トラックに掲載されている車載器とGPSを連動させることで、リアルタイムで運行状況を把握し管理できるシステムです。
運行している現在位置の把握以外にも、運行日報の自動作成や安全に運転しているかのチェック、運行ルートの記録分析などが可能なため、車両管理システムを導入することで、荷主と庸車間での連携が取りやすく、配送ルールの違いによるトラブル防止につながります。
繁忙期などは庸車を賢く利用することで、コスト削減や人手不足への対策が目指せる
庸車は繁忙期の人手不足時だけでなく、イレギュラーな案件を受けた時にも対応してくれるなど、自社の運送業務を助けてくれる協力会社のような役割を担っています。
庸車を依頼する際は、事前に業務内容を明確にした上で庸車契約を結び、トラブルになった時のリスクを分散できるようにしておくと安心です。
車両管理システムの導入なども検討した上で、賢く庸車を活用しお互いに良い関係を築けるようにしましょう。