近年、ドライバー不足や長時間労働、小口配送の増加、過疎地の物流維持などの解決策として「貨客混載」が注目されています。本記事では、さまざまな会社で取り組みが始まっている貨客混載について、導入された背景やメリット・デメリットを解説します。
貨客混載を導入している事例についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
貨客混載とは
貨客混載とは、旅客と貨物を同時に輸送することで「客貨混載」とも呼ばれます。
具体的に言えば、バス・タクシー・鉄道・飛行機などの旅客事業の一部を利用して貨物を輸送する、もしくはトラックを用いた貨物事業の一部を利用して旅客を輸送するものです。
元々、貨客混載は2010年以前は一部地域を除いて禁止されていました。しかし近年、貨物需要が増加した影響から、貨客混載が解決策の手として脚光を浴びるようになったのです。
貨客混載は多くの実証実験を重ね、2023年には有用性が認められました。現在は全国で貨客混載が解禁されています。
貨客混載が導入された背景
貨客混載が導入された背景には、年々増えている小口貨物や、旅客・貨物のドライバー不足などの物流問題が関係しています。物流業界の働き手が少ないにも関わらず、旅客・貨物の輸送需要は高まる一方で、従来のやり方では対応し切れなくなりつつあるのです。
また、物流業界では地域の業者が減っている過疎地域の交通・物流問題も抱えています。さらに業界内ではトラック輸送によるCO2排出量も懸念されているため、環境へ配慮する取り組みも必要です。
貨客混載は、このような複合的な問題を解決、もしくは軽減できる新たな輸送方法の選択肢として期待されています。
貨客混載のメリット
貨客混載は物流業界の複合的な問題を緩和・解決できることから、大きく注目されています。具体的な4つのメリットを整理してみましょう。
物流コストを削減しやすい
貨客混載は物流コストを削減できる可能性があります。輸送の空きスペースを利用し旅客と貨物を同時に輸送するため、別に運ぶ場合の人件費やガソリン費が浮きます。
トラックドライバーの負担を軽減できる
現状の貨物輸送は大部分をトラックによる運送に頼っている状態です。しかし、貨客混載を行えば、輸送を分散できるためトラックドライバーの負担を軽減できます。
トラックドライバーの負担を軽減できれば、ドライバーの長時間労働の削減や労働環境の改善もしやすくなります。
輸送を効率化できる
貨客混載を導入すれば、貨物の種類や輸送先に応じて輸送ができるようになります。
例えば即時配達が必要ではなく、到着先が遠い配送物を「新幹線」、倉庫から近郊の県で即時配達が必要な物を「トラック」で配達するといった分担が可能です。輸送の分担ができれば、近年の小口配送の増加にも対応しやすくなるでしょう。
環境への影響を軽減できる
貨物輸送に使うトラックはCO2排出量が多いため、環境への影響が懸念されています。しかし貨客混載を選ぶことで、トラック輸送量自体を減らせるため、輸送に伴う環境への負担を軽減できる可能性があります。
例えば鉄道などで貨客混載で輸送ができれば、トラックで輸送するよりCO2排出量が少ないと言えます。また、もしCO2排出が多いとされる自動車(タクシーや路線バスなど)で貨客混載をするとしても、別々に運ぶよりは排出量の削減が期待できるでしょう。
貨客混載のデメリット
貨客混載は物流業界の新たな選択肢として注目されていますが、一方で注意すべきデメリットもあります。次は貨客混載のデメリットを見ていきましょう。
貨物の到着に時間がかかる可能性がある
貨客混載は他の輸送と同時に行うため、貨物の到着に時間がかかる場合があります。貨物の配送のみを重視している従来の方法に比べ、到着場所から個人の配送先へ届けるための積み替え作業などに時間がかかるためです。
また、公共交通機関を使った貨客混載は、運行調整などで到着が左右される可能性もあります。貨物だけを優先してスケジュールは立てられないことを前提にして、輸送を計画する必要があるでしょう。
運搬量に限度がある
貨客混載は貨物もしくは旅客の輸送の一部を利用します。例えば新幹線は空席や空きスペース、バスやタクシーはトランクなどです。
つまり、あくまでも本来の輸送のついでに混載するので、1回の輸送で積み込みできる量はかなり少ないと言えます。もし極端に貨物量が増えた場合は、対応しきれなくなることも考えられます。
関係する人員が多い
貨客混載をしたい場合、出発から到着拠点までの交通関連機関、到着場所から消費者まで配送する配送会社など、他業者同士の連携が必要になることが考えられます。
実際に貨客混載を実現するまでには、自社内で取り組みを進めるより、立案~調整に時間がかかると認識しておきましょう。
実際に貨客混載を導入した事例
現在、規制の解禁で貨客混載を導入している企業は増えています。そこで最後に貨客混載を導入した事例を紹介します。
事例を見て、貨客混載をする場合の参考にしてください。
夜行バスの貨客混載
交通機関4社が合同で夜行バスの貨客混載を行ったケースです。大阪~仙台間の夜行高速バス「フォレスト号」の荷物スペースを使い、部品や商品といった貨物を運びました。
また、書庫から配達先までは福山通運と南東北福山通運と連携し、当日中の配達ができるよう調整しています。
詳細 | |
導入日 | 2021年12月7日 |
実施企業 | 近鉄バス株式会社、宮城交通株式会社、福山通運株式会社、南東北福山通運株式会社 |
路線 | 大阪~仙台 |
輸送品 | 部品、商品(日用品、衣料品)、工業製品など |
※参考:近鉄バス株式会社「夜行高速バス(大阪~仙台線)を活用した貨客混載事業の開始について」
新幹線の貨客混載
JR九州が佐川急便と共に貨客混載を行ったケースです。九州新幹線の未活用スペースを使い、博多駅〜鹿児島中央駅間で荷物を輸送しました。
輸送品は一般的な荷物とは異なり、特産品の商品のみを扱った貨客混載です。
詳細 |
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導入日 | 2021年11月19日 |
実施企業 | 九州旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、佐川急便株式会社 |
路線 | 米子駅~岡山駅鹿~鹿児島中央駅 |
輸送品 | 活け松葉ガニなど |
※参考:JR九州「JR九州とJR西日本による初の貨客混載の事業化」
路線バスの貨客混載
両備ホールディングスと楽天が合同で貨客混載を行ったケースです。楽天通販の配送サービス「楽天エクスプレス」の利用者のうち岡山県内の一部地域の人に向けて、さまざまな商品を輸送しました。
なお、輸送は両備ホールディングスの子会社である「東備バス」が担当しています。路線バスの空き座席に荷物を積み込み、営業所まで配達をします。消費者への配送は東備バスが所有する専用の配送車で輸送をする流れです。
岡山市内は、住宅街が形成されたエリアとそうでない場所が点在していたり、傾斜地が多いエリアなどもあります。人口の減少も進んでいるため、効率的な貨物の輸送がしづらい状況でした。そこで路線バス網を活用することで、より輸送ルートの効率化を実現しています。
詳細 |
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導入日 | 2020年3月11日 |
実施企業 | 両備ホールディングス、楽天 |
路線 | 岡山市東部~瀬戸内牛窓営業所(営業所から片道30分以内) |
輸送品 | 商品(食品)など |
※参考:楽天グループ「楽天「Rakuten EXPRESS」において、岡山県岡山市および 瀬戸内市で、路線バスを活用した配送を開始」
貨客混載で物流問題の解決を目指そう
貨客混載は物流コストを削減したり、ドライバーの負担や環境への負荷を軽減することが期待されています。また、配送物に合わせて貨客混載を選ぶことができれば、より効率的な輸送も行える可能性があります。
一方で貨客混載は、貨物の到着に時間を要することや、運搬量に限度には注意をしなければなりません。活用するには貨物ごとの特性を理解し、輸送を割り振る必要があるでしょう。
貨客混載の性質を理解しつつ、うまく活用して物流問題の解決を目指していきましょう。