運送業は、長距離運転が業務上不可欠であり、業務には交通事故のリスクが伴うため、ドライバーには常に安全運転を徹底してもらうことが必要です。
そのためにも、ドライバーの教育が重要になってきますが「新規採用したドライバーの教育方法が分からない」「ドライバーの指導で義務づけられている法定12項目とは何か」と悩んでいる運送業の経営者や、人事担当の人も多いのではないでしょうか。
この記事では、運送業のドライバー教育の重要性や具体的な教育法、法律で定められているドライバー教育の「法定12項目」について詳しく解説します。
ドライバー教育の重要性
荷物を積んでいるトラックなどの大型自動車が、普通の自家用車と交通事故を起こしてしまった場合、自家用車同士の事故よりも被害が大きくなります。
もし、その原因がトラック側にあった場合、会社が責任を問われ深刻な損害が生じてしまうでしょう。
そうならないためにも、ドライバーには常に安全運転を心がけてもらい、運転技術を向上させる必要があるため、運送業においてドライバーの教育はとても重要なのです。
また、ドライバー教育の指導項目は国土交通省で定められており、ドライバー教育の際はその指導項目(法定12項目)に沿って指導することが義務づけられています。
法定12項目については、後述で詳しく解説します。
トラックによる交通事故の傾向
内閣府が発表している「令和3年の道路交通事故の動向」によると、全体の交通事故の件数は17年連続で減少しており、トラックドライバーが関係した交通事故も年々減少しています。
しかし、死亡事故の件数は近年上昇傾向にあり、その原因として長時間労働や人手不足による過労運転が挙げられます。
交通事故を防ぐため、まずはトラックの交通事故ではどのような事故が多いのかという傾向を知っておくことが大切です。
傾向について、以下で詳しく解説します。
人身事故の約半数が追突事故
事業用トラックの交通事故は、約半数が追突事故です。全体の追突事故と比較すると発生率は、約3倍で損害額は約1.6倍になります。
トラックの追突事故発生時の特徴には、以下が挙げられます。
・ドライバーの年齢層|35〜39歳が一番多い
・速度|約6割が30km/hを超えている
・行動類型|直進、等速での事故が約7割
・法令違反|前方不注視(外・内)で約6割
・道路形状|単路、その他が約6割
国土交通省の「トラック追突事故防止マニュアル」では、トラックの追突事故を防ぐための取り組み例を紹介しています。
自社でおこなっている取り組みと比較して、改善できる点がないか検討しましょう。
トラックの追突事故防止のための取り組み例
・デジタルタコグラフ・ドライブレコーダの導入・活用
・安全意識向上に向けた報奨制度の運用
・燃費管理・エコドライブ推進
・追突事故を防止することに焦点を当てたドライバー教育の実施
・適性診断の結果を活用したドライバー教育の実施
・過労運転の防止に向けた運行管理の徹底
・ドライバーの生活習慣改善の指導
・安全管理の取り組み状況の点検(社内監査・内部チェック)
・先進安全自動車(ASV)の導入
・過労運転の防止に向けた荷主とのパートナーシップ構築
※引用:国土交通省|【現場管理者向け】 トラック追突事故防止マニュアル
死亡事故で多い場所は「交差点」
トラックによる交通事故では追突事故が約半数ですが、死亡事故で一番多いのは、「人との接触」で、そのほとんどが交差点で発生しています。
トラックが人や自転車などと接触してしまった場合は、たとえ速度が出ていなくても死亡事故につながる割合が高くなってしまいます。
そのため、交差点では特に歩行者や自転車の安全確認を徹底するように、日頃からドライバーに指導することが大切です。
ドライバー教育で義務付けられている「法定12項目」とは
運送業のドライバーは、「貨物自動車輸送安全規則」で定められている「法定12項目」の指導を年間を通して受けることが法律で義務付けられています。
法定12項目は、事故防止を目的とした国土交通省が定める指導項目のことです。
もし、ドライバーを雇用する企業がこの指導を怠ってしまった場合、車両停止処分などの行政処分対象となるため、雇用する全てのドライバーに指導しないといけません。
法定12項目の内容
1.事業用自動車を運転する場合の心構え
この項目では、運送業のトラック輸送が日本経済を支えるために重要な役割を担っているということと、トラックが交通事故を起こした場合に、社会に与える損害と影響の大きさを説明しています。
この指導をする際は、トラックが関係する交通事故の統計データや、過去にあった事故の事例などを挙げて、安全運転の重要性を伝え、安全運転に対する意識を高める指導を行いましょう。
2.事業用自動車の安全運行を確保するための遵守事項
この項目では、「貨物自動車運送事業に関わる法令」や「自動車の運転に関わる法令」など、ドライバーが守らなければいけない法令について主に説明しています。
法令だけでは伝わりにくいので、運転する車体の日常点検の大切さや、日常点検や安全運転を怠って交通事故を起こしてしまった場合に処分の対象となること、その処分の内容についてなど、具体的に説明して指導すると良いでしょう。
3.事業用自動車の構造上の特性
この項目では、業務で使用するトラックの構造を知っておく必要性について説明しています。
トラックは貨物を輸送する役割をもつため、普通の自家用車とは車体の構造が大きく異なります。
構造を理解していないと、例え安全運転を心がけていても、技術的な問題で事故を起こしてしまう可能性が高まります。
そのため、この項目を指導する際は、内輪差やオーバーバンク、ドライバーが運転する際の視点の高さなど、構造によるトラックの特性について実際の業務を想定した説明を行い、運転技術の向上を目指しましょう。
4.貨物の正しい積載方法
この項目では、トラックに貨物を積載する正しい方法について知っておく重要性について説明しています。
ドライバーは、車体に負担や偏りを起こさないように貨物を積む必要があります。
また、運搬中に荷崩れなどによってトラックから貨物が落下することを防ぐために、貨物をロープで縛ったり、シートを掛けるなど、貨物に合わせて必要な措置をとらなくてはいけません。
この項目を指導する際は、実際に業務で貨物を積載している写真などを使って説明するとわかりやすいでしょう。
5.過積載の危険性
この項目は、前述した「貨物の正しい積載方法」に関連して、過積載による事故の危険性と過積載運搬をおこなった場合の罰則(違反点数や罰金)や、法令上の処分について説明しています。
過積載による事故は被害が大きくなるため、ドライバーには荷積みの際にそのことを意識する必要があります。
過積載について指導する際は、過去の事故例や罰則や処分の詳細を伝えると効果的です。
6.危険物を運搬する場合に留意すべき事項
この項目では、危険物を運搬する際の注意事項について説明しています。
運送業の中には危険物を取り扱う会社も多く、運搬する危険物にもさまざまな種類があり、種類によって荷積みや荷下ろし時の注意点が異なります。
危険物運搬についての指導の際は、運搬時の注意事項と合わせて、危険物を運搬中に事故を起こしてしまった場合の対処法についてもしっかり伝えましょう。
7.適切な運行の経路および当該経路における道路および交通の状況
この項目では、貨物を安全かつ確実に届けるために、適切な運行経路を選ぶ重要性について説明しています。
貨物の運搬は時間に追われるため、つい最短の運搬経路を選択しがちですが、トラックが通行できない狭い道路や、危険が多い経路は交通事故の危険性が高まる上に、運搬が遅れてしまう原因にもなります。
また、天候や事故などで想定していた経路が使えない場合もあるので、その点も踏まえてドライバーが適切な運行経路を選べるように指導することが大切です。
8.危険の予測および回避ならびに緊急時における対応方法
この項目では、運転中の危険予測と緊急時の対応について説明しています。
自動車の免許を持っている人なら、教習所で「KYTトレーニング(危険予知トレーニング)」を受けたことがある人も多いと思いますが、トラックの場合は一般的な「KYTトレーニング」の他に、積載している貨物やトラックの構造を踏まえた危険予知が必要になります。
危険予知について指導する際は、危険予知だけでなく、交通事故以外に地震や大雪といった自然災害が発生した場合の緊急時の対応についても伝えるようにしましょう。
9.運転者の運転適性に応じた安全運転
この項目では、ドライバーの運転適性に合わせて安全運転の指導をする必要性について説明しています。
ドライバーには「運転者適性診断」が義務付けられており、特に初任者のドライバーや事故を起こした人、高齢者は運転者適性診断を受けなくてはいけません。
この指導をする際は、ドライバーの性格や運転のクセを理解した上で、その人に必要な指導をすることが重要になります。
10.交通事故に関わる運転者の生理的および、心理的要因ならびにこれらへの対処方法
この項目では、ドライバーの日々の生活や行動が交通事故につながる可能性について説明しています。
事故につながる生理的な例としては、過労や睡眠不足、体調不良、風邪薬などの副作用での眠気、前日の飲酒による影響などが挙げられます。
心理的な例としては、自身の運転技術の過信や、安全運転に対する意識の低さなどが挙げられるでしょう。
この指導をする際は、普段から自分の健康管理をすることが事故防止につながるということと、日常生活で常に気を付けることを具体的に伝えましょう。
11.健康管理の重要性
この項目では、前述した「交通事故に関わる運転者の生理的および、心理的要因ならびにこれらへの対処方法」と関連して、ドライバーの健康管理の重要性について説明しています。
運送業のドライバーは基本的には、年に1回健康診断を受ける必要があり、深夜帯に運転するドライバーは、年に2回の健康診断が推奨されています。
ドライバーの業務は、常に交通事故のリスクがあり、貨物の運搬で時間にも追われるため、ストレスを抱えやすい環境にあり、事故防止のためにも健康管理は重要です。
この指導をする際には、健康診断の結果をもとに生活習慣の改善や、ストレスチェックを受けることの大切さなどを伝えるようにしましょう。
12.安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
この項目では、車体に装備されている安全装置の性能や扱い方を知っておくことの重要性について説明しています。
近年では、ドライブレコーダーやバックカメラ、自動停止装置など事故の防止につながる安全装置が車体に装備されていることが多いです。
しかし、安全装置の性能を理解していなかったり、扱い方が分からないことが事故につながってしまうといったケースもあります。
この指導をする際は、安全装置を過信して目視での安全確認を怠ったりしないように事例を挙げて伝えると良いでしょう。
接遇マナーの大切さ
法定12項目は、法律で指導が義務付けられている指導項目ですが、ドライバー教育の際には、接遇マナーについても指導することが大切です。
ドライバーの仕事は、貨物を安全かつ正確に届けることが基本ですが、それにプラスして高品質な輸送も求められます。
せっかく、安全で時間通りに貨物を届けたとしても、ドライバーの態度や対応が悪く、取引先に悪い印象を与えてしまうと、会社の信頼にも関わります。
そのため、接遇マナーについてもしっかり指導するようにしましょう。指導するポイントとしては以下の3つが挙げられます。
・挨拶を徹底する
・誠実な対応と相手を不快にさせない話し方を心がける
・清潔感がある服装を心がける
引用:全日本トラック協会「トラックドライバーとしての心構え」
トラックドライバー教育の方法
前述では、法令で定められているドライバーの指導項目「法定12項目」の内容を詳しく解説しました。
ここでは、その指導項目をドライバーに教育する具体的な方法について紹介します。
株式会社オーサムエージェントの調査によると「ドライバーの教育のために取り組んでいることはありますか?」という問いに対して「安全教育」と回答した運送会社が約8割と、多くの企業が、安全運転の指導をメインにおこなっていることがわかります。
また、ドライバー教育でeラーニングを取り入れていたり、マナー教育や社外勉強会を実施している企業もみられました。
トラックドライバー教育のeラーニングの導入を検討している方は、以下のサービスがおすすめです。
※参考:PRTIMES|株式会社オーサムエージェント発表「運送業の92.4%が2024年問題によるドライバー不足を懸念。運送業界のドライバー不足に関する企業調査を実施」
トラックドライバー教育のクラウド型e-ラーニング|グッドラーニング
グッドラーニングは、トラックドライバーの教育に特化したe-ラーニングシステムです。
「法定12項目」にも対応しており、時間や場所を選ばずに初任者ドライバーを含め、全てのドライバーに対して効率よく指導教育がおこなえます。
また、一番安い料金プランで月額11,000円(別途システム導入費)〜と、リーズナブルな点も嬉しいポイントです。
グッドラーニングをおすすめしたい企業
・業務が忙しくドライバー教育まで手が回らない
・研修や教育にかかるコストを削減したい
・専任の教育担当者がいない
全日本トラック協会や国土交通省の資料で研修をおこなう
トラックドライバーの教育用テキストは、全日本トラック協会や国土交通省の公式サイトからダウンロードが可能です。
法定12項目に定められている指導内容はもちろん、マナーやトラックドライバーの実務に関する指導ポイントが網羅されています。
安全運転に関する基本資料として、研修で使用する際も優秀な教材です。
※引用:全日本トラック協会「トラックドライバーとしての心構え」
警察署に交通安全教育指導の出張講習を依頼する
トラックドライバーの安全教育のために、警察署に安全指導を依頼することもできます。
交通安全課などから派遣された担当者が、会社にて交通安全講習会を実施してくれます。
過去にあった事故事例や、管轄エリアで多い事故の傾向など、その地域の特性も考慮して教えてくれるため、マニュアルだけでは難しい実用的な研修が受けられるでしょう。
DVDなども用意してくれて、所要時間も1時間程度なので活用を検討してみてはいかがでしょう。
社内で独自のドライバー教育研修をおこなう
社内で独自のドライバー教育マニュアルや教材を作成し、研修をおこなう企業も少なくありません。
社内で過去にあった事故例や、主に取り扱う貨物についての注意事項、培ってきたノウハウを活かした運行経路の情報など、実際の業務で役立つ会社独自の教材を作成し、研修を行うと効果的です。
教育マニュアルを作成する場合は、法令12項目をしっかり取り入れるように意識しましょう。
ドライバー教育の重要性と法定12項目を理解して、安全のための教育・研修をしよう!
ドライバーの安全教育は、法律で義務付けられており、安全教育を怠った企業は車両停止処分などの対象となります。
トラックによる交通事故は、自家用車よりも被害が大きくなるため、ドライバーは常に安全運転を意識する必要があり、そのためにもドライバーの教育は重要です。
法令12項目を基本に、接遇マナーや自社にあった指導項目を含めて教育を行いましょう。
独自のマニュアル作成や研修制度をつくるのが難しい場合は、e-ラーニングなど便利なサービスを活用することもおすすめです。