配送業・EC事業に関わる中で、最近「ラストワンマイル」について耳にする人も多いのではないでしょうか。物流業界でラストワンマイルとは、最終的な物流拠点から顧客の手元に届くまでのことを指します。近年拡大してきた配送業・EC事業では、この配送工程の効率化が重要視されています。
競合他社の中で選ばれる事業者を目指すには、ラストワンマイルについてより深く理解し、事業の改善を目指していくことが必要です。
そこで本記事ではEC・配送事業に関わる担当者に向け、ラストワンマイルとは何か、またそれに紐づく業界の課題をわかりやすく解説していきます。課題に対する改善点も提案しているので、ぜひ事業の参考にしてください。
物流の最後を繋ぐ「ラストワンマイル」とは
元々ラストワンマイルは、通信業界で拠点から顧客間の区間を示す言葉として使われていましたが、物流業界でも同じ意味合いで用いられるようになりました。
物流業界で「ラストワンマイル」は、注文物が最後の物流拠点(倉庫など)から、顧客の手元に届くまでを指します。
物流が多くの人の生活と密接になったことで、限られたリソースで顧客まで荷物をいかに効率的に届けられるかが業界で課題となっています。
物流業界でラストワンマイルが重要視される理由
EC事業・配送業では、荷物が顧客の手元に届くのが早いほど良いとされます。何故なら、顧客は「必要な物」が「必要なタイミング」で届くことに利用価値を感じているためです。
例えば、顧客が予定に合わせて特定の材料が必要なとき、ECサイトなどで材料を購入するとします。この時、顧客にとって重要なのは必要な時に商品の納品が間に合うかどうかであり、サービスの利用価値を左右すると言えます。
だからこそ各EC事業や配送業では、ラストワンマイルで迅速かつ確実に納品することを重要視しています。
ラストワンマイルの課題とは?
EC・配送事業が拡大したことで、ラストワンマイルに関連する課題もさまざまなものが増えています。
ラストワンマイルの課題をまとめると次の4つとなります。
- ドライバーや配達員不足
- 業界全体で配達物が増えすぎている
- 再配達によるコスト・業務量の増加
- 送料無料などによる利益減
続いて各課題を詳しく解説していきます。
ドライバーや配達員不足
一番大きな課題としてよく取り上げられるのが、ドライバー・配達員の不足です。最後の受け渡しの担い手として無くてはならない存在ですが、高齢化や労働環境の悪化などによって人員そのものが少ない状態が続いています。
ドライバーや配達員は労力や責任の大きさの割に賃金が安く、さらに長時間労働や力仕事が求められる仕事です。そのことから定着率も低く、既存の人員に頼った状態がこれまでの業界内の大きな課題でした。
加えて、年々高齢化して引退する人や、労働環境についていけない人が出るにつれ、新たな人員が増えないことが問題として浮き彫りになっています。近年業界内ではドライバーや配達員の負担軽減や労働環境の改善に取り組んでいますが、人員不足問題の根本解決には至っていません。
不足した人員をどのように回復するか、もしくはどう補っていくかが大きな課題と言えます。
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業界全体で配達物が増えすぎている
どのような物でも購入でき、届けてもらえる時代が当たり前になった反面、業界全体で配達物が増えすぎていることも問題視されています。ネットショップや配送サービスを利用する人口が増えているため、動く物量が圧倒的に多くなっているのが現状です。
また、金額や品数が少なくても注文可能なサービスも増え、1人あたりの注文数も多くなっています。さらに近年は短時間配送などのサービス需要も増えたため、急ぎの配達物の量も増えました。人員が少ないことに対し、どのように配達物の物量を捌いていくべきかを考える必要があります。
再配達によるコスト・業務量の増加
配達物を1回で配達できないことで再配達が増え、ドライバー・配達員の業務量を圧迫している問題もあります。配達と家主が受け取るタイミングが一致しないと、どうしても一定数の再配達物が生まれてしまうためです。
1回で配達できない場合は、再度足を運ばなければならず、現場の業務はどんどん積み重なっていってしまいます。また、再配達に伴ってドライバー・配達員の労働時間が増えるため、必然的に人員を動かすための人的・金銭的コストが増大しています。
現場・業者の両方で負担軽減をするために、いかに1回で配達できるかが重要になってきています。
送料無料などによる利益減
ネットショップで送料無料のサービスが増えたことで、EC事業者側は負担となっても送料無料のサービスを打ち出すことが多くなりました。それにより、事業者側の送料負担が増大したことで、利益率の低下につながるケースが増えてきています。
また、利益率低下により、配達にかけられるコストが減り、配達業者には安い費用で依頼せざるを得なくなっているのです。そのため、配達業者側が必然的に報酬額の下方調整を余儀なくされています。
また、配達業者の報酬額が低いことは、勤める人が増えない=人員が足りない悪循環に繋がるため、EC事業者にも巡り巡って影響が返ってくるリスクも否定できません。
悪循環を生まないためには、サービスと利益を両立し、無理なく費用配分を行う方法を考えていく必要があります。
ラストワンマイルにおける課題の解決方法
ラストワンマイルには、人員・需要・業務量・利益とサービスの両立で課題があることがわかりました。これらの課題を解決するためには、次の4つ解決方法があります。
- ITツール導入による業務効率化
- 拠点の統一や共同配送の検討
- 新たな配送手段の模索
- 消費者の受け取り手段を多様化させる
ここからは解決方法を詳しく解説していきます。
ITツール導入による業務効率化
限られた人員でスムーズにラストワンマイルの配送を叶えるためには、現状の業務改善も必要不可欠と言えます。そこでおすすめなのが、入出庫を管理するITツールの導入です。
物流拠点の手作業の入出庫管理からITツールへ変えることで、人件費の削減だけではなく人為的なミスも減らせます。さらに効率的な配置・配分もITツールが考案してくれるため、より配送スピードが改善できる可能性もあります。
また、ITツールを導入することで各トラックの配達量が可視化され、無理なく配送配分を調整することや、急ぎの配達物の追加調整も行いやすくなります。各ドライバーや配達員の負担も軽減しつつ、効率化を叶えられるのはITツールの大きなメリットと言えるでしょう。
一方、ITツールはコストがかかり、従業員へ使い方を周知させる時間も必要です。導入にかかる工数が大きいこともネックになるでしょう。そのため、必然的に物流拠点の数が多く、導入後の改善による負担減で得られるメリットが大きい、一定規模以上の業者が対象となってきます。
拠点の統一や共同配送の検討
物流拠点をなるべく統一し、可能なら複数業者と共同配送するシステムを利用することも課題解決の一つになるでしょう。たくさんの物量を扱うEC事業者は、素早く顧客へ届けるために複数の拠点数を持っている場合が多いです。
しかし、拠点数が多いとそれだけ維持費がかかることは否めません。また、配送業者たちはさまざまな拠点へ行かなければならず、現場ドライバーの負担も大きいです。
そこで、拠点を統一し、他社と共同配送することで、倉庫の管理や配送手配のコストを分割することができます。さらに拠点がまとまることで、配達業者への負担も減らすことが可能です。
新たな配送手段の模索
今後現状のままドライバー・配達員が増えない場合は、人員不足の影響を避けるのは難しいと考えられます。そのため、将来的な側面を考えて、新たな配送手段も模索しておく必要があります。
近年、将来的な配送手段として物流業界で注目されつつあるのは、ドローンや自動配送ロボットです。ドローンや自動配送ロボットが実用化されれば、人員不足や配送スピードの課題を解決できる可能性があります。
実際に大手通販業者や自動車会社などが実用化に向けて動いており、開発が継続中です。法整備など実用に向けての動きはこれからですが、将来的に新たな配達方法として一般化することが期待されています。
消費者の受け取り手段を多様化させる
「置き配」など消費者の受け取り手段を増やすことで、なるべく1回で配達ができる仕組みを導入することもおすすめです。1回でスムーズに配達できることで、再配達のコスト負担を一挙に減らすことができます。
近年では新型コロナウイルスの影響もあり、さまざまな荷物の受け取り方が一般化したため、受け取り方を選びたいと考える人も増えました。消費者が受け取りやすい方法を増やせば、1日のラストワンマイルの完遂数を増やすことができるでしょう。
消費者がスムーズに受け取りやすい配達方法
消費者へ直接配達する以外では、次の3種類の配達方法があります。
- 宅配ボックス・大型郵便ポスト
- 宅配ロッカーサービス
- 店頭・コンビニ受け取り
以下で詳しく見ていきましょう。
宅配ボックス・大型郵便ポスト
宅配ボックス・大型郵便ポストは、郵便ポストの大型バージョンのような形で中に荷物を入れることで配達を完了できます。外に設置することで家主が不在でも配達することができるため、再配達せずに済むのがメリットです。
また、ボックスを設置せずに生身で玄関先に置くより盗難・紛失リスクによる業者負担リスクも少ないと言えます。
ただし設置は家主次第であることや集合住宅などでは設置できないケースもあるため、普及するのに限界があるという側面もあります。
宅配ロッカーサービス
宅配ロッカーサービスは、指定された駅前や商業施設などの中に設置した専用ロッカーに荷物を届けるサービスです。サービスの一例としては、コンビニや施設で展開する「はこぽす」や「PUDOステーション」などが挙げられます。
ロッカーは配達物専用となっており、消費者が指定することで対象の場所で荷物を受け取ることができます。消費者は期間内の好きなタイミングで受け取れるため、自分の都合で確実に受け取りやすいのがメリットです。
ただし宅配ロッカーサービスは展開している場所や地域が限られているため、配達エリアが該当サービスに適応しているかを事前に確認しましょう。
店頭・コンビニ受け取り
店頭またはコンビニ受け取りという手段もあります。
店頭受け取りは消費者が指定した店舗へ配達し、好きなタイミングで受け取ってもらう方法です。消費者の家へ配送する必要がなく、在庫の発送と一緒に店舗へ送れるため、別途送料もかかりません。
消費者も店舗が開いている好きなタイミングで確実に受け取ることが可能です。コスト面で業者側と消費者の双方にメリットがあると言えます。
また、コンビニ受け取りはその名の通り、消費者にコンビニで受け取ってもらう方法です。配送が各コンビニまでとなるため、かかる送料を若干軽減することができます。
加えて、店頭より営業時間が長いため、受け取れる時間が長いことも消費者にとっての大きなメリットです。
ラストワンマイルを改善して荷物を迅速に届けよう
配送業・EC事業では、いかにラストワンマイルにおいて、迅速かつ確実に届けるかが会社の利益を左右します。対して、ニーズが増加する一方で人員不足はすぐに解決する問題ではなく、人員不足以外の側面で工夫をして効率化する必要があります。
具体的には、ITツールの活用や拠点の再編、また現在のオペレーション改善が対象となってくるでしょう。また、内部の効率化に加えて、顧客が受け取る選択肢を増やすことができれば、1件あたりの配達スピードも上げることが期待できます。
ラストワンマイルにおける効率性を工夫をして、今後も顧客に選ばれ続ける配送・ECサービスを目指していきましょう。