運送業は、ドライバーの人手不足や高齢化が慢性化しており、その原因の1つに離職率の高さという問題があります。
「ドライバーの離職率の現状を知りたい」「ドライバーの定着率を上げるために企業ができる対策は?」といった疑問を抱えている運送業の経営者の方や、管理業務の担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では運送業のドライバーの離職率と、定着率を上げる方法について詳しく解説します。
また、「2024年問題が人手不足を深刻化させるのか」といった疑問についても記事の最後で回答しますので、ぜひ参考にしてください。
ドライバーの離職率の現状
運送業では、離職率が入職率を上回る年が多く、多くの企業が慢性的な人手不足に悩まされています。
厚生労働省が発表した「学歴別の就職後3年以内離職率」によると、新規就業者の就職後3年以内に離職した割合は、高卒が36.9%で大卒が31.2%です。(全産業・平成30年卒業者を対象)
運送業における新規就業者の就職後3年以内に離職した割合は、高卒が32.8%で大卒が25.0% となっています。
つまり、運送業の若年層による離職率が他の業界に比べて特に高いというわけではないのですが、それでも高卒で3人に1人、大卒で4人に1人が入社後3年以内に離職している計算になるため、運送業の人手不足の解決には若年層の離職率を下げる対策が必要となるでしょう。
引用:厚生労働省「学歴別の就職後3年以内離職率の推移」
引用:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概況」
引用:国土交通省「交通関連産業のイメージと新たな取り組み」
運送業ドライバーの人手不足の原因
全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業の現状と課題(2023年))」によると、運送業の就業者の割合は、40歳未満の若年層は全体の23.9%に対して、40〜50歳未満が27.4%、50歳以上が48.8%となっており、ドライバーの高齢化は年々進んでいます。
さらに、女性の就業者は全体で20.4%、ドライバー職に限ると3.5%と、他の業界と比較しても特に低いことがわかります。
上記の数字からも、運送業ドライバーの慢性的な人手不足の原因は、若年層の離職率の高さだけでなく、若年層と女性の新規就業者の少なさや、現在運送業を支えているドライバーの高齢化という複数の問題が関係しているのです。
物流業界の人手不足の原因と対策について、詳しく解説しているこちらの記事も併せてご覧ください。
「【2024年版】物流業界の深刻な人手不足の原因と今後すべき対策」
引用:全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業の現状と課題(2023年)」
ドライバーの離職率が高い5つの原因
ここでは、運送業のドライバーの離職率が高い原因について詳しく解説していきます。
1. 体力・肉体的な負担が大きい
運送業のドライバーは、長時間の運転に加えて、輸送する荷物の積み下ろしなど体力的に負担がかかる仕事です。
そのため、腰や背中を痛めてしまい身体的に働けなくなり、辞めてしまうケースも少なくありません。
また、体力や肉体的に辛くなると体調を崩したり、注意力が散漫になってしまい事故を起こすリスクも高まります。
対策としては、定期的な健康診断はもちろん、点呼業務の際にドライバーの体調確認を怠らない、産業医と提携してドライバーのメンタルヘルスケアを行うなどが有効です。
ドライバーの健康診断の重要性や、適切な点呼業務については以下の記事で詳しく解説しています。
「ドライバーの健康診断や管理の重要性とは|事業者の義務も解説」
「運送会社の「点呼」業務は法律で義務付けられている!点呼の確認事項や違反した場合の罰則も徹底解説」
引用:厚生労働省「メンタルヘルスケアとその実践の意義」
2.労働時間と勤務条件への不満
運送業のドライバーは業務上、長時間労働になってしまう傾向が多く、交通状況次第で労働時間が長くなってしまったり、適切な休憩が取れないことも少なくありません。
また、厚生労働省の「トラックドライバーの勤務条件と疲労・睡眠」によると、1ヶ月あたりの休日日数は4〜7日という回答が多く、他の業界と比較しても休日が少ないことがわかります。
休日が少ないと仕事のストレスや、疲労の解消ができないため、離職につながる要因になるでしょう。
労働時間と勤務条件の改善は、離職率を下げるだけでなく、新規採用者を増やすことにもつながり、結果として人手不足の解消が目指せます。
引用:厚生労働省「トラックドライバーの勤務条件と疲労・睡眠」
引用:J-STAGE「トラックドライバーの過労に影響する働き方と休み方の横断的検討」
3.仕事の悩みを相談できる場がない
ドライバーの仕事は運転業務がメインなため、業務時間のほとんどを1人で過ごすことになります。
そのため、仕事に関する悩みや不満があっても、それを上司や同僚に相談する機会が少なく、悩みや不満が蓄積された結果、離職を選択してしまう人も少なくありません。
また、社員同士の交流や関わりが少ないということは、相談する環境だけでなく、自分の仕事を評価される機会も少ないため、「厳しい仕事を頑張っても誰にもわかってもらえない」という感情になりやすく、仕事へのモチベーションの低下に繋がってしまうでしょう。
対策としては、昇給や評価制度を社内で導入したり、気軽に相談できる職場の環境づくりが大切になります。
4.教育体制が整っていない
運送業は、若年層の新規採用者が仕事を覚える前に退職してしまうというケースが多い傾向にあります。
原因としては、社内の教育体制が整っていないことや、繁忙期などは教育係の従業員も仕事を教える余裕がないため、新規採用者が不適切な教育を受けてしまい、必要なことが覚えられないまま業務を任され、その結果、プレッシャーや不満を抱えて退職してしまう人が多いようです。
また、大型のトラックが事故を起こしてしまうと、自家用車同士の事故よりも被害が大きくなります。
さらにその原因がもしトラック側にあった場合、会社が責任を問われて深刻な損害が生じてしまうため、運送業において、ドライバーの教育は離職率を下げるだけでなく、会社と従業員を守るためにも大変重要です。
新規採用したドライバーが安全に仕事ができて、さらに仕事への意欲を持ってもらうために、ドライバーの教育体制の強化はとても大切です。
以下の記事では、ドライバーの教育の重要性や国が定める指導項目「法定12項目」について解説しています。
「運送業のドライバー教育の方法|国土交通省が定める指導項目「法定12項目」とは?」
5.事故のリスクなど、精神的負担がかかる
ドライバーの業務は、常に交通事故の危険性が伴います。そのため、身体的な負担だけでなく精神的な負担も大きい仕事です。
ドライバーが安全運転を心がけていても、天候や交通事情、もらい事故などで事故にあってしまう可能性は常にあり、その精神的負担によって離職してしまうドライバーも少なくありません。
また、長時間労働によって家族と過ごす時間が少ないといった声も多く、ワークライフバランスを重視したい若年層には選択しづらい職種ともいえます。
ドライバーの定着率を上げる方法
ドライバーの離職率が高くなってしまう原因について解説してきましたが、どうしたら離職率を下げて、定着率を上げることができるのでしょうか。
ここでは、ドライバーの定着率を上げて人手不足を解決するための対策を解説します。
労働時間や条件、待遇を見直す
ドライバーの離職を防ぐためには、労働時間や条件、待遇の見直しの施策が有効です。
具体的には、従業員の休日日数が十分か確認したり、残業時間が36協定で定められている時間を超えていないか、福利厚生が整っているかを意識して改善しましょう。
特に離職率を防ぎたい若年層は、ワークライフバランスを重視する傾向が強いため、働きやすい労働条件や職場環境が求められます。
ドライバーの時間外労働時間や36協定に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
「運送業の36協定を徹底解説|ドライバーの残業上限は2024年4月1日以降どう変わる?」
給与や昇給制度、人事評価を見直す
労働環境と共に、給与や昇給制度の見直しも離職率を防ぎ、定着率を上げるために効果的です。
前の見出しでも触れましたが、離職率が高い原因の1つに「1人での仕事が多いため、悩みを相談する環境がなく、また評価される機会が少ない」という点があります。
それらを改善するために、従業員を正当に評価できる人事評価制度を検討すると良いでしょう。
また、ドライバーを統率するマネージャーや上司の評価基準には、社員の定着率や職場環境の満足度、採用目標数などを項目に入れることで、目指す基準が明確になりモチベーションアップにも繋がります。
社内の教育体制を整える
社内の教育制度を整えることで、ドライバーの定着率を高めるだけでなく、安全運転の意識向上にもつながります。
新規採用者には、運転技術や荷物の取り扱い、安全運転をしっかり習得できるような研修が必要です。
そのためには、研修を行う側の教育係のコミュニケーションスキルやマネジメントスキルが必要となるため、教育する側の研修も合わせて社内の教育体制を整えましょう。
主な研修内容は、以下の通りです。
- 運送業に必要な知識や技術を習得するための研修
- 安全運転の重要性を学び、実現できるための研修
- 教育係が適切な教育を行うために必要な知識や、スキルを習得するための研修
メンタルヘルスケアができる環境を作る
仕事の悩みを相談できる環境がないと、離職につながる可能性が高まります。
特にドライバーは1人で仕事をすることが多いため、従業員の精神的なケアができる職場環境の改善は大切です。
とはいえ、常に同僚や上司と同じ場所で働けるような職種ではないため、産業医と提携している企業は、産業医にアドバイスを求めるのも一つの手です。
従業員が50人以上の事業所では、産業医と提携することが法律で定められていますが、50人以下の事業所でも産業医との提携は可能ですし、単発でメンタルヘルスケアの面談を行ってくれる産業医紹介サービスも多くあります。
引用:厚生労働省「メンタルヘルスケアとその実践の意義」
ドライバーの離職に関わる問題についてよくある質問
ここでは、ドライバーの離職についてよくある質問について回答します。
2024年問題で人手不足が今より深刻化する?
2024年問題とは、働き方改革に伴いドライバーの労働環境改善を目的とした法改定で、2024年4月1日からドライバーの時間外労働時間の上限などが制限されます。
ドライバーが働きやすくなる代わりに、労働時間が減ることで給料の減少が懸念され、人手不足が今よりも深刻化するのではと懸念されているのです。
つまり、2024年の法改定に合わせて、評価体制や給与制度の見直しを行わないと人手不足はさらに深刻化してしまう可能性が高いといえます。
引用:国土交通省「トラック運送業の現況について」
離職率が低い会社の特徴や、実践している対策は?
厚生労働省の調査によると、離職率が低い運送会社が実際に行っている対策として、以下の例が挙げられます。
- 地域の同業他社の賃金相場を調査し、それよりも平均賃金を約2万円ほど高く設定する
- 業界未経験者の給与は固定給にし、経験者は歩合制や業績による昇給制など従業員が選択できる給与制度を導入している
- 住宅補助や法定外健康診断、病気などで働けなくなった場合の保障など、福利厚生を充実させている
- 希望に沿ったシフトや、休暇や労働時間に柔軟性がある設定を行い、ワークライフバランスを意識している
引用:厚生労働省「企業の皆さまへ トラック運転者の改善事例」
若者や女性ドライバーの雇用を増やすにはどうしたら良い?
国土交通省は、2014年に運送業の女性ドライバーを増やすために「トラガール促進プロジェクト」という施策を開始しましたが、それから10年経った今でも女性のトラックドライバーは、全体の3.5%に留まり、他の業界と比較しても非常に少ないのが現状です。
若者や女性のドライバーを増やすためには、ワークライフバランスを意識した労働環境や勤務体制の整備と共に、求人サイトや公式HPなどの求人欄でそれらを適切にアピールすることが大切です。
女性ドライバーの採用の実情については、以下の記事で詳しく解説しています。
「女性ドライバー採用の実情。課題や解決策、企業事例もご紹介。」
引用:国土交通省「若年層・女性ドライバー就労育成・定着化に関するガイドライン」
ドライバーの離職率を下げる対策を行い、定着率を上げよう!
運送業のドライバーの離職率が低い背景には、長時間労働などの労働環境や賃金の低さ、教育体制などさまざまな要因が考えられます。
離職率が高く、新規就業者が少ない状態では人手不足は今後も続いてしまうことが想定されます。さらに「2024年問題」によって時間外労働時間が制限されるため、ドライバーが働きやすくなっても給料が減少してしまう可能性が高いことから、人手不足は今よりも深刻化すると懸念されています。
ドライバーの離職率を下げて定着率を上げるためには、この記事で紹介した対策をしっかり行い、現在雇用している従業員の総合的な満足度を上げると同時に、若年層や女性の新規雇用を増やすことが重要です。